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渦中の辻元清美に訊く「デマと保守」

2017/04/01

genre : ニュース, 政治

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小林よしのりさんと「なんか最近、波長が合うんですよ(笑)」

 辻元事務所を訪ねる前、コンビニで『SAPIO』(4月号・小学館刊)をパラパラめくっていると、小林よしのりさんの連載漫画『ゴーマニズム宣言』の一コマで手が止まった。これから会う辻元が美人に描かれているではないか──。

 美醜論争を仕掛けたいわけではない。『ゴー宣』に時々登場する辻元といえば、小林さんの主張と対立する悪役として登場し、時に間抜けな印象を与える「お花畑キャラ」として描かれていた記憶がある。

 それが……。

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『SAPIO』2017年4月号(小学館)より抜粋

 辻元本人も「異変」に気づいていた。

「なんかねえ、驚いた。昔は、ものすごく嫌な雰囲気で、目が吊り上がった感じで描かれていましたが、私も『SAPIO』を見て、嬉しくなりました。私もかつては小林さんが嫌なヤツだと思っていて、むこうも私のことを嫌っていた。それが、なんか最近、波長が合うんですよ(笑)」

 小林さんのブログを覗いてみた。

《ニュースで辻元清美が国会質問で稲田朋美を泣かしていた。辻元やるなあ。貫禄があるし、筋金入りになってきたなあ。わしの考えは辻元氏とは全然違うが、追及されたら泣いてぶりっこする「名誉男性」を容赦なく責め立てる姿は、爽快である。》(2016年9月30日、「辻元清美が稲田朋美を泣かす快挙」

《辻元清美は夏のお盆の時期を「全国戦没者追悼式」に参列するか、年老いた両親を連れて、父方の祖父が眠る戦没者の墓へ墓参するかの、どちらかで過ごしているという。辻元はサヨクで、稲田はホシュなどという区分で人を見てはいけないということの証明のようなものだ。》(同10月4日、「稲田朋美の化けの皮が剥がれてきた」

小林よしのりさんのブログ「ゴー宣道場」より

 保守にもいろんな人がいるようだ。小林さんも保守。稲田も保守。安倍晋三も籠池泰典さんも保守。こんにゃく発言の鴻池祥肇も保守。小池百合子も石原慎太郎も保守。安倍昭恵さんも籠池諄子さんも保守らしい。小泉純一郎と小泉進次郎からも自らの立ち位置について「保守」と語るのを聞いたことがある。

 辻元の周囲にもリベラルより保守を語る人間が目立つ。14年の総選挙では辛口コラムニストの勝谷誠彦さんや一水会創立者の鈴木邦男さんが応援弁士として街頭に立った。ブロガーの山本一郎さんや一水会代表の木村三浩さんと親交があり、私淑する知識人に元文藝春秋編集長で作家の半藤一利さんやノンフィクション作家の保阪正康さんら保守論壇の泰斗を挙げる。辻元は昨夏まで民進党代表だった岡田克也の補佐役を務め、前原誠司とも近い。

 ひょっとして辻元清美も保守なのか──。

 いまどき永田町で保守を論じるほど難しいことはない。筋金入りの自民党家庭で生まれ育った私でさえ、「真の保守とは誰か」と問われたら答えに窮してしまう。そのあたりのことを自民党関係者から聞き出そうとしても、だいたい安倍の擁護論しか表に出てこない。それじゃ、つまらない。ならば、「対岸」から眺めてみようと事務所を訪ねたついでに、辻元にいくつか質問をしてみた。

「自民党でも安倍さんの語る保守がヘンだと思っている人は少なくありませんよ」

──2月1日の衆院予算委員会では散会後に安倍首相に詰め寄り、「プーチン大統領の前でテーブルひっくり返すぐらいせなあかんわ」と迫っていたそうですね。小林よしのりさんも「最近は単なる護憲派の『お花畑』思想を脱して、防衛にも外交にも強くなってきている」「覚悟が安倍ぼっちゃんとは全然違う」とブログで評しておりましたが、リベラル派の代表格である辻元さんがこれほど「保守」を語れ、首相に強気の外交を迫るとは驚きました。

「常井さんのそれ、レッテル張りや(笑)。私のこと、サヨクだと思っているんでしょ!!」

辻元清美議員 ©常井健一 

──では、自民党の昔と今、さっき挙げた野中広務さんや古賀誠さんたちと安倍首相とは何が違うんでしょう。

「野中広務さんも私のおじいちゃんも戦争に行かされた側、古賀誠さんも私の父も戦争で親を亡くした側なんです。だから、安倍さんや麻生(太郎)さんが『子どもの頃、おじいちゃんにかわいがってもらった』という話を聞くとちょっと腹が立つんですよ。特に、安倍さんの祖父は重要閣僚で、日米開戦の詔書にサインした側だった。庶民を戦争に行かせて、生き残った側なんですよ。安倍さんの近い人たちがA級戦犯の合祀にこだわるのも、戦争を送り出した側を守ろうとする論理に囚われている証拠です。

 父方の祖父はパプアニューギニアのブーゲンビル島で戦死して、私の父は15歳で働きに出た。残された家族を養わざるを得なかった。25歳で私が生まれた。ずっと生活が苦しいわけです。ひとたび戦死者を出すと三代後まで影響が出る。私も父方の祖父の顔もわからないし、家は貧しかった。だから、私は戦地に行かされ、生活苦を強いられた庶民の代表だと思っています。今の時代でも、戦争に行かせた側と行かされた側の関係を作りたくない。

 先日、地元の大阪で街頭演説していたら、向こうからおばちゃんが自転車で走ってきて、『息子が自衛官なんや』と。『国会の質問で稲田さんに本当によく言ってくれた』と。自衛隊の家族はNHKの国会中継をしっかり見ているんですよ。今までなかったですよ、自衛官の家族が私に近寄ってくるとか(笑)。『もっと言え、もっと言え』という感じでしたよ。

 今も南スーダンに派遣された自衛隊の家族がどれほど心配しているのか。今の安倍政権、稲田大臣が自衛隊員の命を結果的に『政治の道具』にしているようなところに危機感を持っています」

──稲田大臣に「戦没者を蔑ろにするな」と迫る。最高指揮官の安倍首相に「隊員の命を守れ」「家族を守れ」と迫る。立場が逆転しています。まるで保守政治家の言動ですね。

「質問のたびに自民党の閣僚経験者から『よかった、よかった』『もっとやれ』『次はこんな質問をしたらどうか』というメールが来たりするんです。現職の方々は名前出せないけど、OBだとよくお電話をくださるのは山崎拓さん、あと河野洋平さん。実際、自民党でも安倍さんの語る保守がヘンだと思っている人は少なくありませんよ。民進党内でもロシア外交について安倍さんに迫った後、真っ先に電話くれたのは松原仁さんだったんです」

「小池さんは今、溜まっていたマグマが爆発しているよね」

小池百合子氏と野田聖子氏 ©三宅史郎/文藝春秋

――自民党にも実はいろんな声があるんですね。

「意外かもしれませんが、安倍政権の中でも菅(義偉)さんは初当選同期だし、野中さんや古賀さんにも近かったので親近感はあります。安倍さんとは違う、同じような政治のキャリアを歩んできたように感じる点があるのです。

 あと、小池百合子さんにはシンパシーがあったの。環境大臣やっていたときとかも実務的だし、発想は面白いし。パレスチナの友好議連も一緒にやっていた。パレスチナに関わるなんてお互い物好きだなと思いながら。向こうのほうが少し期数は上だったけど、小池さんと野田聖子さんと私は女性議員の中で一番古株のほうだし、共通点がある。3人とも安倍晋三に嫌われている。

 小池さんが都知事に出る前、会合で隣り合わせになって、私、聞いたんです。『どうよ、安倍政権。小池さんを閣僚に起用したらバンバン仕事できるのに、安倍さんの周りの親衛隊になっている女性たち、アレ、ないよ』と言ったら、小池さんが『いやあ、安倍政権から見たら、私が〈リ・ベ・ラ・ル〉なんだって。私がリベラルだったら、辻元さんはどうなっちゃうのよ(笑)』と言ったわけよ。二人でコソコソ笑っていたの。

 小池さんは今、溜まっていたマグマが爆発しているよね。男たちがだらしないから」