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安田 峰俊
2017/04/11

「主席の言葉を心に刻め」習近平公式アプリの無駄に高いクオリティ

スマホ時代の専制支配の素顔

 民進党が4月末に開催予定のイベント「ニコニコ超会議2017」に、国会で蓮舫代表から追及される擬似体験を売りにした「VR蓮舫」の出展を発表したことが話題をさらっている。そのほか、近年はスマホの普及にともない、自民党や公明党など各党が公式アプリを配信中だ。新たな支持層の掘り起こしのため、おかたい政治の世界も最新のIT技術に乗り遅れまいと懸命である。

 これは一党専制国家である中国でも同様だ。すなわち、習近平礼賛公式アプリ『学習中国』なるものが存在するのである。これは中国共産党の幹部養成機関・中共中央党校によって開発され、同校の主催ページ『中国幹部学習ネット』上で配信中。主に党員教育を目的としたアプリだが、党員どころか中国人ですらない私でもダウンロードが可能である。

iPhoneとAndroidの双方に対応。

『学習中国』は2015年4月のリリースから今月でちょうど2周年を迎えたが、更新はなおも活発だ。今年1月からは「私が大好きな習主席の一言」と「私が習主席にいちばんお伝えしたい一言」のキャンペーンがはじまり、全国の党員のみなさんが偉大なる習主席の徳を慕って投稿を続けている。

 本稿では日本初の試みとして、この習近平アプリのやけに豊富なコンテンツを徹底的に紹介し、スマホ時代ならではの中国式専制統治体制の素顔をゆるく眺めていこうと思う。

『学習中国』のコンテンツ。わが国の自民党公式アプリよりも質、量ともにしっかりしているのだ。

本邦初公開、これが党員御用達の習近平礼賛アプリだ

 上記のスクリーンショットからもわかるように、『学習中国』のメインコンテンツは15種類。ほかに閲覧履歴やお気に入りを記録するユーザーの個人ページと、前述の「私が大好きな習主席の一言」などのキャンペーンページが存在している。さすがに世界最大の政党の威信を賭けて制作しているだけに、この手のアプリとしては非常に視認性がよく、直感的でサクサクした操作感が光る(ただし細部の作り込みが甘く、バグでアプリが落ちることはある)。

 まずは1段目中央にある「実景地図」から紹介しよう。これはいうなれば、習近平のリアルタイム活動マップ。1年365日、勤勉な習主席が世界のどこにいるのか、また世界のどの指導者に手紙を書いたり電話を掛けたりしたのかが一目でわかる優れものである。

3月末の習近平の動向。北京で執務し、海南島のボアオ・アジアフォーラムとロシアのプーチン大統領にお手紙を送っている。

 このマップとリンクしているのが、1段目左の「新聞」(ニュース)だ。会議への出席や海外要人との会談など習近平関連ニュースがすべてまとめられているため、中国ウォッチャーにとってもなかなか有用なコンテンツである。

 こちらの画面上には「いいね」欄があり、例えば3月16日のサウジ国王との会談は4627いいね、2月17日に習近平主催で開かれた国家安全工作座談会には5526いいねが付いているといった具合。仮に一連の数字が「盛られて」いないとすれば、大体5000~6000人くらいの読者がこのアプリニュースを熱心に読んでいると見られる(アプリ自体の総ダウンロード数は非公開)。

全人代の閉幕を伝えるニュースに、筆者も「いいね」を付けてみた。

 次に注目したいのが2段目左の「知識地図」。すなわち、過去の習近平の講話や毛沢東思想・トウ小平理論など中国共産党幹部の必修概念を、スマホのスクリーンをタッチして樹形図状に追えるスタディコンテンツだ。もっとも大部分は、習近平の談話である。

 たとえば習政権のメインスローガンである「中国の夢」からは、「中国の夢の実現には必ず中国精神を宣揚せねばならない」「中国の夢とは平和・発展・協力・ウインウインの夢である」「中華民族の偉大なる復興という夢を成就させよう」など、8項目が伸び、さらに各項目をタッチすると傘下に細かい説明が伸び……といった構造となっている。直感的にどんどん話が広がっていくので、学習アプリとしての操作感は悪くない作りだ。

アプリ自体は見やすいが、肝腎の習近平の話自体が曖昧なので、結局よくわからない内容ではある。配信公式ページより(http://www.ccln.gov.cn/phone/studyClient.html)より。

 ほか、アプリの3段目に位置するのは「習おじさんと学ぶ〇〇」のシリーズだが、内容は真面目な記事ばかりで面白味がなく、思い切ってゆるキャラでも起用していただきたいところだ。それ以外にやや興味深いのは5段目右の「引経用典」で、習近平が演説の際に引用した中国古典の章句解説になっている。ナショナリスティックな主張を好む習近平は、中華民族の偉大さをアピールできる古典が大好きなのだ。

 ところで、このアプリで「教育」される側の共産党員はどう考えているのだろうか。アプリの開発元でもある中央党校の修士課程修了生(2005年)で、『「暗黒・中国」からの脱出』(小社刊)などの著書がある元共産党員の民主活動家・顔伯鈞氏はこう話す。

 「ニュースに多数寄せられている『いいね』も、少なくない数が当局が雇ったサクラでしょう。中央党校で学ぶ人々はもっと世の中が見えていますから、この手のくだらないアプリは冷ややかに眺めているはずです」

 むしろ、『学習中国』は非エリート層である一般庶民や下層党員向けのプロパガンダツールとして機能しているようだ。

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