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渥美 由喜
2015/11/22

発達障害、子供の難病、父親の介護を乗り越え、活躍する人気コンサルタントの原点とは……

『長いものに巻かれるな! 苦労を楽しみに変える働き方』 (渥美由喜 著)

ネガティブ体験こそ、誇るべき「年輪」

『長いものに巻かれるな! 苦労を楽しみに変える働き方』 (渥美由喜 著)

 同期でビリの昇格ペース、2回の転職、晩婚晩産、育休前のパタニティハラスメント、育休中のパタニティブルー、認知症と統合失調症を患った父の介護、難病の子どもの看護、降格。さらにさかのぼれば十数年の彼女いない歴、失恋、一浪一留、小2プロブレム、お受験失敗、内反足の手術、小児喘息、発達障害……。

 本書は、私自身の実体験を包み隠さず、かなり赤裸々に明かしながら、私が長年研究してきた、ダイバーシティ・マネジメントや、ワークライフ・マネジメントの本質やノウハウをできるだけわかりやすく伝えようとした本です。こう書き連ねると、「何て露悪趣味な」と思われるかもしれませんが、私にとって堂々と誇るべき、大切な「年輪」です。「何で誇るべきなのか?」と思った方は、ぜひ本書をお読みいただくとして、ここでは、私がダイバーシティを研究しようと思った原点について、お話ししたいと思います。

厳島神社を建てた先祖へのオマージュ

 私の父は大工です。父の祖父の代までは先祖代々、宮大工でした。家系図を見ると、安芸の宮島に現存する厳島神社を約800年前に建てた時の棟梁が先祖だったというのが渥美家の一番の自慢です。瀬戸内海に毅然と立つ姿で有名な、あの社の写真や平山郁夫画伯が描いた絵を見るたびに、私は先祖に対する深い敬意をおぼえます。

 平安時代から千年以上ずっと続いてきた家業がついに、父の長男である私の代で途絶えます。言わば、千年に一人の「不」逸材が私です。幼い頃から、夏休みなど、父の手伝いをするたびに、金槌で親指を叩いてしまい、青紫色に腫らしていた不器用な私が大工を継がなかったのは仕方がない、家名に泥を塗らないだけマシか……とおそらく先祖たちも諦めていることでしょう。

 しかし、出来の悪い子孫なりに、先祖に対して申し訳を立てられないものかと私の頭をよぎることがありました。本書は、私なりの先祖へのオマージュ(尊敬する作品に影響を受けて、似たような作品を創作する事)です。朝に夕に目まぐるしく潮流が変わりゆく大海原に、すくっと立ち続ける何千本の柱のように「流されない」という気概を込めて書いたのが、本書「長いものに巻かれるな!」です。「それは、厳島神社に失礼だろ!」という突っ込みは甘んじて受けます……

木造建築物の礎にある「ダイバーシティ・マネジメント」

 宮大工の棟梁として渥美家に先祖代々伝わってきた口伝の一つに、「良い社を建てるには、山をまるごと使え」という教えがあります。

 日当りの悪い北向き斜面の木は貧相で見栄えはしないかもしれません。しかし、過酷な環境の中で育った分、密度がつまっており頑丈なので、縁の下の力持ちの役割を担うことができます。東や西など片側からしか日が当たらなかった木は、建物における方向を計算して使うと良い働きをします。そんな風に、「それぞれの木の特性を活かした適材適所の使い方をせよ」という意味です。

 別の口伝には、「風雪をしのぎたいのならば、南斜面の木で社を建てるな」という教えもあります。日当たり良好な場所ですくすくと育った木は見栄えは良いかもしれないが、過酷な環境にはもろい面もあるので使えない、という意味です。

 こうした教えはダイバーシティ・マネジメント(=多様な人たちを活かす人材活用スキル、社員一人ひとりを能力発揮させる経営戦略のこと)そのものだと私は考えています。

 我が国の木造建造物は、世界最古、あるいは世界最高レベルと称されるものがいくつもあります。傑出した作品を産みだすベースにあるのは、木材一つひとつの個性に目を配り、組み合わせの妙に意を凝らすという匠の技なのです。

 他国の世界遺産のことはよく知りませんが、おそらくピラミッドや神殿のような石でできた建造物にも組み合わせの妙はあるはずだと思います。でも、石の生育環境にまで心配りをしているとは思えません。木という生物と共生してきた日本人特有の繊細な感受性があればこその口伝の教えだと私は思っています。