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長谷川 晶一
2017/05/30

【ヤクルト】今の状況に近い!? 広澤克実、宮本慎也が語る「負けグセの系譜」

文春野球コラム ペナントレース2017

一体、いつになったら目を覚ますのか?

 真中満監督が自ら考えたという、今年のスローガン「目を覚ませ! SNAP OUT OF IT 2017」。神宮球場ではイニング間にこのフレーズが何度も流れるが、最近ではこのフレーズを耳にするたびに、「いつになったら目を覚ますのか?」「いい加減に起きろよ!」と、ファンもいら立ちを募らせている。

 自慢の打線が、なかなか目を覚まさずにスタートダッシュに躓いたものの、それでも「5月になれば打てるだろう!」と楽観視していた。しかし、山田哲人もバレンティンも、本来の調子にはほど遠く、中軸をなすべき川端慎吾も畠山和洋も一軍復帰まで、まだまだ時間がかかりそうだ。苦肉の策として、鵜久森淳志(元日本ハム)、坂口智隆(元オリックス)、今浪隆博(元日本ハム)、大松尚逸(元ロッテ)など、「パリコレ」と呼ばれるパ・リーグ出身選手中心の日替わり打線で急場をしのいでいるものの、相変わらず打線は目を覚ます気配を見せず、ファンの間では大きなため息が漏れている。

 それでも、去年までは壊滅状態にあった投手陣が今年は懸命に踏ん張り、何とか勝利を拾っていた。しかし、何とか築き上げた防波堤にも次第に決壊の気配が漂い、リリーフ陣が打たれ出し、頼みの守護神・秋吉亮がまさかの乱調で、負けが込むようになる。それが、ヤクルトの5月だった。

 チームが弱いと、ファンの気持ちも千々に乱れる。SNS上では、一部過激派ファンによる采配批判、選手への不満が爆発し始める。それをたしなめる者と、そこから離れていく者。しばしば巻き起こる「単なる愚痴」なのか、「愛ゆえの批判」なのかという不毛な論争。こうして、試合以外でも次第に疲弊していく。それが、ヤクルトファンの5月だった。

 僕は、勝っても負けても、全試合の新聞記事をスクラップしているのだけれど、最近はハサミと糊を手にするのが億劫だし、とても気が重い。勝ち試合のスクラップは実に心躍る楽しいひとときなのに、連敗中のスクラップの何と辛いことか。「新聞を切って、ノートに貼る」という単純作業とは思えない苦しみの時間。誰に頼まれているわけでもないのに、朝からこんな苦行に悩まされているのは、まさに惚れた者の弱みであり、ひいきチームを持ってしまったファンの悲しき宿命なのだろう。

ヤクルト史における、「負けグセの系譜」とは?

 先日、約40年にわたる「ヤクルト愛」をまとめた『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)を出版した。この本の中で僕は、現役首脳陣、選手、OB約50名に話を聞き、「僕はどうしてヤクルトが好きなのか?」「どうしてヤクルトというチームは魅力的なのか?」を探る旅を続けた。

 この本の中で僕は、「かすみ草の系譜」「背番号《1》の系譜」「脇役の系譜」「歴代エースの系譜」「リハビリの系譜」「ファミリー球団の系譜」など、全9つの系譜とともに、ヤクルトの歴史と魅力をまとめてみた。そして現状のヤクルトを見ていると、僕はどうしても、忍び寄る「ある系譜」の影におびえてしまうのだ。

 かつて、ヤクルトには「負けグセ」が蔓延していた時期があった。僕が子どもの頃の80年代はまさにそうで、近年では00年代後半にもそんな時期があった。そう、かつてこの球団には「負けグセの系譜」と呼ぶべき、負の系譜があったのだ。80年代の低迷期を知る広澤克実氏は当時を、次のように振り返った。

「これだけ負けるとね、いわゆる《負けパターン》というものができてくるんです。たとえば、①相手に先行されたら負ける、②こちらが先行しても、同点に追いつかれたら負ける、③同点のまま終盤になったら負ける……。そのパターンにハマると、自然にチーム内に“あぁ、今日も負けなんだろうな”という雰囲気が出てくるんです」

 さらに、広澤さんは「勝ちパターン」について解説をする。

「逆に《勝ちパターン》は一つしかないんです。先制して、中押しして、ドーンと大差をつけた段階で初めて、“今日は勝てそうだ”という雰囲気になるんです」

 ……マズいよ。今、この状況が近づきつつあるじゃないか! また、本書ではOBの宮本慎也氏にも話を聞いた。宮本さんはこんなことを言った。

「強いときというのは投手と野手との信頼関係がしっかりしているものなんです。でも、たとえば古田監督の2年目(07年)、そして小川監督の最後の年(14年)なんかは7回までリードしていても、終盤でひっくり返される場面が結構ありました。そうなると、どうしても信頼関係が悪くなってくる。野手は“一体、何点取れば勝てるんだよ”と思うし、一方の投手は好投していても、点が取れないときには“普段は打っているくせに、どうして今日は打たないんだよ”という気持ちになるかもしれない。口には出さなくても、そういう雰囲気は伝わりますよね。それではチームとしてはいい状況にはならないですから」

 宮本さんの言う、07年、14年はいずれも最下位になっている。そして現状は、まるで宮本さんの発言のようなチーム状況が訪れつつあるように、僕には見える。油断していると、あっという間に「負けグセ」は蔓延してしまうのだ。決して油断してはならないのだ。

「負けグセ」について語る宮本慎也氏(左)、広澤克実氏(右上)、関根潤三氏(右下) ©長谷川晶一