ファイターズの外国人選手は90年代前半、チアガールと一緒にダンスを披露して「踊るホームラン王」と親しまれたマット・ウインタースや、現在「寿司ポーズ」で大人気を博しているブランドン・レアードを代表格に、派手なパフォーマンスの印象がある。が、今回、僕が取り上げたいのは静かなる男、シャーマン・オバンドーなのだ。

1999年のシーズン途中に入団したオバンドー ©共同通信社

「オーバンド」の語感に不安を抱いた入団前

 オバンドーはパナマ出身の外野手、右投げ右打ちの強打者だ。現役時のサイズは身長2メートル、体重100キロ。キャリアハイは2000年シーズン、イチロー(当時、オリックス)に次ぐ打率.332を残し、本塁打30、打点101でベストナインに選出されている。面白いことにファイターズには1999年〜2002年と、2004年〜2005年の二度在籍している。東京時代のタテジマのユニホームを脱いでいったん帰国した後、しばらくしてあらためて来日し、北海道の左右非対称ユニホームに袖を通した。

 そしてそのどちらもシーズン途中の緊急補強だった。1999年は主砲ナイジェル・ウィルソン(97年ホームラン王、98年ホームラン&打点王)がヒザの故障でリタイア、その穴埋めとして5月末に来日した。

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 当時、僕はラジオ番組でスポーツ紙の「ハム、右の大砲獲得へ」の記事を取り上げたのを覚えている。そのとき、「Obando」のカタカナ表記がまだ決まってなかったのだ。スポーツ紙は「オーバンド」と報じていた。僕はそれは輪ゴムではないかと思ったのだ。ナイジェル・ウィルソンの補強が輪ゴムか。大丈夫か輪ゴムで。

 申し遅れたが、僕は外国人選手の名前の語感に人一倍敏感な体質である。何かこう、打つ選手は「バース」とか「ブーマー」とか「ブライアント」とか濁音が混じってる気がする。音に迫力があるのだ。それから音引きの横棒が入ってると、その分、飛距離が増しそうだ。文春野球コラム、DeNA担当の西澤千央さんも「ボイヤー」「ローズ」で同意してくださるのではないか。音引きの横棒はないが「ブラッグス」もいい。パなら西武の「ブコビッチ」が濁音感満点。

 ただ音的に迫力のない外国人を見誤ってしまうのが、この判定方式(?)の欠点で、例えば「ミヤーン」「ポンセ」をどう考えても打てないと決めつけてしまう。「ミヤーン」なんてそんな「嫌ぁーん」みたいな打者が打つわけないと思い込む。危険な判定法なのだ。

 ハムの外国人ではウインタースと同時期に活躍した「リック・シュー」が難しかった。音引きの横棒は入っている。が、音に迫力ゼロだ。「シュー」はタイヤのパンクの音だろう。が、「シュー」は(「ミヤーン」「ポンセ」ほどではないにせよ)けっこう打つ選手だった。ごめんなさい。

 で、「オーバンド」改め表記が統一された「オバンドー」である。音的には微妙に思えた。輪ゴムでなくなったのはいいが、関西弁の「おじん・おばん」を連想する。あと「おばんです」という月夜の田舎道のあいさつだ。オバンドー英二はゆで玉子が大好き。いや、この語感は打たないだろうと思う。案の定、確か来日初打席はゲッツーだった。やっぱりか、オバンドー。突っ立ったまま手打ちしてるようなフォームも迫力に乏しい。

4番打者の風格があったオバンドー

 そうしたらオバンドーは稀代の好打者だった。チーム合流後、コンディションが整ってくると快打を連発、1年目は打率.306、ホームラン20、打点62を残した。シーズン途中加入で、日本の野球にまだ慣れてないなか、この数字は立派である。突っ立ったまま手打ちするようなフォームがいいのだった。テークバックをほとんど取らず、構えたところから最短でインパクトに向かう。どのコースでも当てるのだ。穴がない。

 当時、文化放送の鈴木光裕アナ(現在フリー)が西武の投手コーチの談話を僕に教えてくれたのを覚えている。「投げるとこがないって悩んでましたよ。新外国人だから全部のコースを試してみるんです。で、ここも打たれる、ここもダメ、ここも打たれる……、結局、全部打たれたって(笑)」スイングスピードがあるから、そこそこホームランも出るが、本質は「安打製造機」だったと思う。

 当時話題になった「ビッグバン打線」は1998年に、金融ビッグバンを当て込んだネーミング(不人気球団の打線に名前をつけて、話題作りを狙った)だから、本当はオバンドー加入前(外国人はブルックス&ウィルソン)の愛称だ。が、メディアに定着して、ファイターズの打棒爆発を語るときの決まり文句となった。僕は田中幸雄が1番を打ち、西浦克拓が主軸に加わった初代「ビッグバン打線」に思い入れがある。が、いちばん好きなのは2000年モデルの「ビッグバン打線」だ。これは2番小笠原道大、4番オバンドーという革命的な打線だった。

 1、(8)井出竜也
 2、(3)小笠原道大
 3、(5)片岡篤史
 4、(7)オバンドー
 5、(9)島田一輝
 6、(DH)ウィルソン
 7、(6)田中幸雄
 8、(2)野口寿浩
 9、(4)金子誠

 オバンドーは4番打者の風格があった。深い森のような男なのだ。大げさなジェスチャーやアピールとは無縁だ。静かに微笑んでいる。声のトーンも落ち着いていて、マイクを向けられるとどこか恥ずかしそうでさえあった。2000年にベストナインに輝いた後、翌年は数字は残しつつも骨折(自打球)や胸椎椎間板症に苦しみ、最後の年はヒザを痛めて退団してしまった。