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日本のメディアが知らない、アリアナ・グランデの本当の「クールさ」

マンチェスター・テロ事件から13日後、再びステージに立つアリアナ。彼女が背負う使命とは?

2017/06/03

genre : エンタメ, 音楽

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クールかどうかは“同業者の支持”が決める

 音楽ジャーナリストを名乗っている立場としてはそこに不甲斐なさを感じずにはいられないのだが、現在、誰がクールで誰がクールではないかを決定づけるのは、メディアや批評家ではなく、実はファンでもなく、同業者からの支持である。一番わかりやすい例を挙げるなら、ジャスティン・ビーバーだろう。ローティーンの頃にYouTubeにアップした「歌ってみた」動画から人気に火がついたジャスティン・ビーバーは、デビュー当初こそアイドル扱いされていたが、今では誰も彼のことを「ただのアイドル」だと思っている人はいない。それは、彼のもとに音楽シーンの最先端にいるミュージシャン、DJ、ラッパーから次から次へとオファーが舞い込み、そこでシーンのトレンドを先取りする楽曲を生み出し続け、ほぼ100%の確率でヒットチャートに送り込んでいる実績があるからだ。

 現在のポップスターの役割は、ジャスティン・ビーバーのように本人そのものがメディア化することによって、音楽シーンの新しいトレンドを多くの人に広めることにある。本人の歌が上手くてセンスがよくて容姿がいいのは当たり前。その上で、問われているのはそうしたメディアとしての柔軟性と拡散力だ(そのためには、かつてのスーパースターたちのように豪邸やスタジオばかりに籠っていないで、一般人もいるクラブやストリートで遊び続けて、時にはそこでヤンチャをすることもある)。

Ariana Grande - Everyday(feat. Future)
https://www.youtube.com/watch?v=oHmBf4ExtZk

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「時代の声」としての使命を引き受ける

 アリアナ・グランデの最新アルバム『デンジャラス・ウーマン』には、彼女のことを「妹」と呼んでかわいがっているニッキー・ミナージュを筆頭に、フューチャー、リル・ウェインといった現在のラップ界を代表するビッグネームがゲストとして参加している。また、近年の彼女は、スティーヴィー・ワンダーやジョン・レジェンドといったブラック・ミュージック界の「権威」とのコラボレーションだけでなく、カルヴィン・ハリスやカシミア・キャットといったヨーロッパのダンスミュージックの人気プロデューサーたちからのラブコールにも応えて、「時代の声」としての使命を積極的に引き受けるようになっている。今の時代、どんなにスーパースターでもそのようなフットワークの軽さが求められているし、逆に言うとフットワークの軽さがなければスーパースターにはなれないのだ。

Cashmere Cat - Quit (feat. Ariana Grande)
https://www.youtube.com/watch?v=CKhmCh68Qu0

 あの痛ましいテロ事件からたった13日後、6月4日にマンチェスターのオールド・トラッフォードで開催されるアリアナ・グランデ主催のベネフィット・コンサート「ワン・ラブ・マンチェスター」には、盟友ジャスティン・ビーバーはもちろんのこと、コールドプレイ、ファレル・ウィリアムス、ブラック・アイド・ピーズ、アッシャーといった各ジャンル、各世代の幅広いミュージシャンが参加する。今回のテロ事件は23歳の女の子が背負うには重すぎる出来事だが、それでもアリアナ・グランデは歩みを止めずに、同業者たちと共にポジティブなメッセージを世界に向けて発信することを選択した。それは、それこそが現在のポップスターに課せられた役割であり、使命であることを、彼女自身が誰よりもわかっているだろう。

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