いまから32年前のきょう、1985(昭和60)年6月18日、豊田商事会長の永野一男が、大阪市内のマンションの自室で、鉄工所経営者とその元従業員の男2人組に刺殺された。

 豊田商事は1981年より、主に高齢者を相手に金の購入をすすめ、現物の代わりに証書を渡すという詐欺商法で巨額の現金(最終的に約2022億円にのぼった)を集めた。85年になると警察の捜査が本格化し、会長の永野は事件の前日、6月17日に警察の取り調べを受ける。この日はマンションに報道陣が詰めかけたため、部屋にひとり閉じこもっていた。

 男2人組は玄関ドア横の窓のアルミ製格子を引きはがしたかと思うと、ガラスを破って部屋に侵入、犯行におよぶ。主犯格の経営者の男は、事を終えて部屋から出てくると、報道陣を前に「おれが犯人や。警察を呼べ」などと言いながら、凶器である銃剣を見せた。このあと2人はマンションの外に出たところを、殺人の現行犯で逮捕される。

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窓ガラスを割り、室内に入る男 ©共同通信社

 この事件は一部始終がカメラに収められ、それをテレビなどで見た人々からは、なぜ報道関係者は犯人たちを止めなかったのかと批判の声も上がった。しかし現場にいたある放送局の記者によれば、マンション前に現れた男たちの言い分はとても本気には思えず、銃剣も主犯格の男が鞄に隠し持っていたため誰も気づかなかったという(関西マスコミ倫理懇談会50年誌企画委員会編『阪神大震災・グリコ森永vsジャーナリスト』日本評論社)。一部の記者は警察に通報したが、それは男たちが部屋に侵入してからだった。

 その後の裁判で、犯人の2人はそれぞれ10年、8年の懲役刑に処された。肝心の詐欺事件は、当事者である永野一男の死亡により不明な点が残される結果となった。豊田商事の金庫に残っていた現金は集めた額に比してごくわずかで、管財人弁護士団が回収に奔走したものの、被害者に戻ったのは被害額の1割強にとどまる。