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【ウエスタン・オリックス】突然消えたマスコット「八カセ」への異常な愛情

文春野球フレッシュオールスター2017

2017/07/13

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2017」に届いた約100本の原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】SAZZY(サジー) オリックス・バファローズ 31歳
 1986年11月12日生まれ。男。大阪生まれ大阪育ち大阪在住。阪神、近鉄を経て現在はマリーンズファン。10年ほど前にフリーでラジオDJやイベントMCなどをやっていたが今は会社員。家族で行く野球観戦が何よりの至福。好きな選手は髙濱卓也。結婚記念日は10.19。野球以外ではパンクロックとドラクエと笑点をこよなく愛する。

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異質だったマスコット「八カセ」とは

 突然消えてしまった。サヨナラも言わずに。いなくなった後は色々と探してしまった。上段のスタンド、内野のコンコース。こんなとこにいるはずもないのに。

 オリックス・バファローズのマスコットと言えばバファローブル、バファローベルの2体。あれ? 単位は「匹」じゃないの? と思われる方もいると思う。彼らは「時空を超える牛型ロボット」なのだ。今年のスタジアムマナー映像を見たらわかるように、ブルくんがショートしたり、過去には始球式で骨折して修理に出されたこともある。バトルモードなんてのもあった。となると製作者がいるわけだが、それが姿を消したマスコット、八カセなのだ。

2012年8月26日の西武戦にて撮影 ©SAZZY

 この八カセ、とにかくマスコットとしては異質だった。元々東北楽天ゴールデンイーグルスのキャンプに激励に訪れたFC琉球、沖縄プロレス、かりゆし58のメンバーから贈られた「超特大ゴーヤ」だったのだが、翌年久米島と宮古島を間違える凡ミスから象に踏まれてしまう。そこを通りかかった赤田将吾、坂口智隆に助けられあっさりとオリックスに移籍してしまう。というマスコット史上初、そのままの外見でNPBチーム間移籍を果たす。

 2011年、ネッピーとリプシーの退団により、「勝手に」造ったのが上述の2体。わりと色んな大事なことに絡んでいた。その頃にマッドサイエンティスト風な風貌となり「3・4・5・6・7八カセ」を名乗り始めた。ゴーヤと八カセは同一人(ゴーヤ)物では無いと話していたがどうみても同一人(ゴーヤ)物だろう。ほら、八カセの頭がとれてゴーヤが出てきたこともあるし。後に勝手に大阪市の環境局とコラボして「大阪環境八カセ」を名乗った。

 所狭しと走り回ったりダンスをしたり車やバイクを運転したり、ブラックホッシーやMr.カラスコを彷彿とさせる動きをする一方、なんと喋るのだ。最近でこそつば九郎やドアラ、マーくんがスケッチブックとペンを使ってコミュニケーションが出来るようになったが、八カセはそんなものも使わない。口の中にマイクを突っ込み、肩に提げた拡声器から声を出す。スタジアムMCの堀江良信さんと丁々発止のやり取りをイニング間に行い、そして、ビジターのファンをガンガン煽る。

 北海道日本ハムのB・Bが京セラドームにやって来たときは「あ、熊や! 死んだふりせぇっ!」という関西人お馴染みの島木譲二さんのギャグをぶちこんだり、ゴールデンウィークにマリーンズファンで黒く染まったスタンドに「良い子のみんなはあそこに近づいたらアカン。黒いやつらは怖いか悪いやつや!」と言い放ちマリーンズファンのブーイングを浴びた(すぐに「おー、怖っ!」と叫んで笑いに変えてた。軒並みマリーンズファンにも好評だったようだ)。

 イニングの間だけではなく開門前の球場外周や試合中のコンコースもよく歩いていた。忘れられないのはある夏のロッテ戦。開門前、マリーンズの列に並ぶ私に八カセが話しかけてきた。「今日は絶対バファローズ勝つで」。その挑発めいた言葉に周りのファンも「んぁ?」という空気になったが、次の一言にやられた。「ロッテの先発中郷やろ。中郷、中継ぎピッチャーやん」。確かにその日の先発は中郷大樹だった。中継ぎの柱で投げていたが、先発陣が軒並み総崩れして白羽の矢がたったのが中郷だった。後にも先にもキャリア唯一の先発だった。こいつ、単に煽るだけじゃなくてよくわかってるな。面白い! なお試合は乱打戦になりマリーンズが勝ちました。

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