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新浪剛史の教え#6「マネージメントに必要なのはリスクを取ることだ」

私はこう考える――新浪流・乱世を生き残るための教科書

2017/08/01
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 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

◆ ◆ ◆

マネジメントは哲学だ

 前回の営業力に引き続いて、今回はマネジメント力をどう身に付けていくべきかについて考えてみましょう。私はこれまでマネジメントについて苦労を重ねてきました。マネジメントを論ずると、30代には、ノウハウの話になってしまいます。40代だと、ノウハウだけではなくなってきます。でも、これが50代になると、もう完全に哲学の話になってしまうのです。

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 結局、マネジメントは実際にやりながら悩むしかないんです。私のビジネス人生の中で本当に「これだ」と思える答えなんて、ほとんどありません。稀にあるかもしれないけれども、そこにたどり着くには、人生の体験、つまり経験の“濃さ”が必要なのです。それは喜怒哀楽の濃さだと言ってもいい。マネジメントには人としての濃さが必要なのです。

上に立つ人ほど、自分の人間力が試される

 私は同世代よりも比較的早くマネジメント修行を始めました。30代半ばで給食事業を立ち上げて、「自分で決める」ということをやらせてもらってきました。マネジメントとは、簡単に言えば、誰かに頼って意思決定をしないということでもあります。そういう境遇にいると、逃げられないし、責任は常に自分にあります。

 そういう状況の中で、必死にもがいて自分で課題を解決しなければならない。そうしなければ何事も前に進まなくなってしまいます。もし、厳しい局面を前にして、打開策を見つけることができず、淡白にあきらめてしまうと、会社は潰れてしまうのです。

国際バーテンダー協会ウェルカムパーティで

 大事なことは、自分自身がどれだけプライドを持って、マネジメントをやれるかということです。むろん経験の濃さというのは、年齢だけで測ることはできません。でも、やるべきことをやっていれば、30代半ばでも見えてくるものがあるということなのです。

 この経験の濃さに加えて、もう一つ大事なことはリスクを取ることです。悩んだり、苦しんだりして決断することが多ければ多いほど、自分のマネジメント力は高まっていきます。もし人の上に立つ人に、そうした経験がなければ、部下がどんなことで悩み、何に苦しんでいるのか理解することはできません。結局、マネジメント力はその人次第なのです。人の上に立って、部下たちのモチベーションをどう上げるのか。上に立つ人ほど、自分の人間力が試されるのです。

人間力や共鳴してもらう力とは、結局は哲学

 私がマネジメントの経験をする中で、本当に肩の力が抜けて、自分なりにそれまでの体験が役立つと感じるようになったのは、40代の後半くらいからです。それまでは自分のやり方をとことん押し通すタイプで、我も強かったのです。とにかくマネジメントを実行することに対して、ものすごく力が入っていました。そんなふうだったから、社員からは嫌われていたかもしれません。

 だからこそ、経験というものが、非常に重要なのです。苦い経験をすればするほど反省します。とくに20代、30代はそうでしょう。それが、40代後半になってくると、次第に経験を活かせるようになってくるのです。そして、50代で人間力を発揮していく。

 私がローソン社長になったのは43歳のときです。43歳になったばかりのときに、「社長をやれ」と言われて、そのときはもう遮二無二やるしかありませんでした。でも、現在の50代の私にそのときのような体力はありません。むしろ今は、どうやって人に仕事をやってもらうのか。またはどう動いてもらうのか。そんなことを考える時間が多くなっています。

 人の上に立って、自分ではできないことを人にやってもらうには、やはり共鳴してもらうことが必要になってきます。つまり、人間力や共鳴してもらう力とは、結局は哲学なのです。あの人の考えていることはいいことだと思ってもらえる。それが重要なのです。

悩んだことが多いほど、その経験が活かされてくる

 40代のとき、『論語』など中国の古典を読み始めましたが、50代になった今、ようやく内容を理解できるようになってきました。しかも不思議と池波正太郎の『鬼平犯科帳』といった時代小説も好むようになりました。長屋で暮らしている風景といったものをとても愛しく感じるようになってきたのです。四季に寄り添いながら、ゆっくりした時間の流れの中で、人情を大事にしながら日々を生きていく。そんな町人たちの生活が羨ましいんです。『鬼平犯科帳』を読んでいると、やはり私も日本人だなと思うわけです。グローバル、ダイバーシティと言っていても、自分は日本人なんです。

 私は今、サントリー社長として、いろんなことを学ばせてもらっています。その意味では、20代、30代で、いろんなことにチャレンジしてきたことが、50代になってやっと実ってきたと感じています。どういう経験をして、どんな泣き笑いをしてきたかということが50代で出てくるんです。悩んだことが多ければ多いほど、その経験が活かされてくる。だから、皆さん、慌てなくてもいいのです。リスクを取って、やりたいと思ったことはやる。私は今もそうした姿勢で仕事に取り組んでいます。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

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