47年ぶりとなる14連敗を喫し、7月22日にようやく屈辱の歴史を止めた東京ヤクルトスワローズ。その2日前、大のスワローズファンである人気ミュージシャン、クリープハイプ・尾崎世界観氏とグラスを傾けながらの対談が都内某所で行われた。連敗渦中にあった2人のスワローズファンによる苦悩の対談のごく一部をご紹介しよう。話は「7月7日の惨劇」、新守護神・ライアン小川がまさかの6失点。8対9で敗れた試合についてから始まった。(編集部注:文春野球の「代打制度」は別の人がコラム執筆することですが、今回は特別に対談形式でお送りします)

尾崎世界観氏と観戦中の様子 ©長谷川晶一

2017年7月7日――あの日、僕らは一度死んだ……

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長谷川 ……辛いですね。

尾 崎 ……辛いですね。

長谷川 47年ぶりとなる連敗記録更新。尾崎さん、精神やられてないですか?

尾 崎 7月7日があったので、あれ以来ずっと不思議な気分なんです。あの日、僕らは一回死んで、その後は死後の世界にいるような感じなんですよ。

長谷川 あの日、僕らは一回死んだ……。確かにそんな気分だよなぁ……。

尾 崎 あの日、テレビで見ていたんですけど、5点リードの場面で9回に一気に6失点。新ストッパーのライアン小川がまさかの大乱調。テレビの前で茫然としていました。

長谷川 僕、あの夜の記憶がないんです。あの晩、どこで呑んだのか? どうやって帰ったのか? ホントにあの日、僕は死んだのかもしれない。ゾンビのように朝方の東京をフラフラと徘徊していたのかもしれない。

尾 崎 まさに、黄泉の国にいる気分ですよ。7日に一度死んで、その後は成仏できずにこの世をさまよっていたんですけど、9日にまたライアンが新井さんに打たれて延長12回引き分け。あれで完全に天に召されて成仏しました。

長谷川 9日の広島との試合は3対2の場面で、9回からライアンが登板して、代打・新井貴浩に同点打。そのまま延長12回の引き分けでした。

尾 崎 でも、あの日も見所はあったんです。坂口智隆が初回にいきなりヘッドスライディング。あれは完全に間に合うのに、チームを鼓舞する意味があったと思うんです。その後も、センターフライをダイビングキャッチしたりして。

長谷川 僕もその場面はすごく印象に残っていますね。あの日、僕はチームの勝敗はいいから選手たちのがむしゃらなプレーが見たくて、感動したシーンをメモしていたんです。今言った、坂口の初回のヘッドスライディング、2回表のダイビングキャッチの他にも、2回裏には藤井亮太がヘッドスライディング。6回裏には中村悠平が打席で粘りに粘った。そして、結果的に打たれはしたけど9回のピンチの場面で、真中満監督が自らマウンドに行った場面……。見所はたくさんあった気がする。

尾 崎 でも、その後の巨人3連戦はズルズル行ってしまいましたね……。

長谷川 3戦目の巨人・宮國椋丞が先発した試合は、せめて勝ちたかったなぁ……。

尾 崎 そうですね。データで言っても、防御率6点台で1勝もしていなかった投手と、こっちは安定度抜群のブキャナンとの投げ合いでしたからね……。これで10連敗。

長谷川 僕たちはいつ、現世に戻れるのかな?

尾 崎 勝つしかないですよ。でも、逆に不安になりますよね、「もしも勝ったら、自分はどうなってしまうのだろう?」って。だけど、ヤクルトが勝ったとき、僕たちはもう一度、この世に戻れるんだと思います。

長谷川 この期間、何よりもショックだったのが、「僕はヤクルトの負けに慣れている」と思っていたのに、それでも10連敗を過ぎたあたりから動揺が始まり、11連敗で動悸が止まらず、12連敗で呼吸困難になり、13連敗で意識朦朧となってきたこと。「動揺しないはずの自分」が動揺していることに動揺するというスパイラル。

尾 崎 僕の観戦友だちにみっちゃんという長年スワローズファンの70代の女性がいるんです。普段は試合に負けても「こんなことで動じたら、ヤクルトファンはやってられないよ」と言っているのに、7日の広島戦だけは、「あの日は私もさすがに落ち込みました」と言っていました。僕の父親も7日の試合は「こんな負け方は今まで見たことがない」って言っていて……。

長谷川 あの試合はオールドファンにもダメージを与える試合だったんですね……。

尾 崎 父であれ、みっちゃんであれ、これまで、どんなに負けても仏のようだった人たちが落ち込む姿を見て、「あっ、やっぱり今はヤバいんだ」と、事の重大性をより感じましたね。