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菅野 朋子
2017/08/18

サムスン総帥・李在鎔の逮捕が浮き彫りにした韓国民の「財閥」への不信感

 8月7日、李在鎔・サムスン電子副会長に懲役12年の求刑が言い渡された。

 韓国史上、財閥オーナー家としては、2006年に不正融資などで起訴された金宇中・大宇グループ会長の求刑15年に次ぐ重い量刑。

 李副会長にかけられた容疑は賄賂供与、横領、財産国外逃避などの5つ。韓国特別検察は「典型的な政経癒着」と主張したが、世論は騒然となった。

 朴槿恵前大統領の弾劾を巡る裁判で弁護側に参加した保守派の弁護士は言う。

「皆が驚くほど異例の求刑ではありません。この裁判は朴前大統領を糾弾するための政治的裁判で、いわば朴前大統領裁判の前哨戦。李副会長の嫌疑の中の財産国外逃避は10年以上の懲役刑でもありますし、10年以下の量刑はあり得なかった。ただ、本来なら10年の求刑が妥当なところを、2年加算されているのは(韓国)特別検察という性格上、目に見える実績を上げなければならないこと、絶対に有罪をとるという強い意思を表わしたものといえるでしょう。裁判所への圧迫もある。判決を前に裁判官は相当な重圧の中にいるはずです」

手錠をノートで隠しながら出廷 ©getty

オーナー家で初めて拘置所に収容

 李副会長が逮捕されたのは今年2月のこと。1月中旬には一度、根拠が薄いとして棄却されていたが、朴前大統領の弾劾についての裁判(3月10日)を前に事態は急展開した。

 韓国の全国紙社会部記者は、「当時、朴前大統領と崔順実氏に迫るための重要人物の一人が李副会長でした」と言う。

 サムスングループでは、過去に2代目で李副会長の父親、李健熙会長が3度検察に召還されたがいずれも在宅起訴で、同グループのオーナー家の人間が逮捕されて拘置所に収容されたのは初めてのことだ。

大統領への働きかけはあったのか

 裁判の焦点は、賄賂供与である「第三者供賄」の部分だ。

 これは自身が確固たる総帥になるための準備過程で便宜を図ってもらおうと、崔順実・鄭ユラ氏の母娘へ賄賂433億ウォン(約42億円。贈賄と約束した金額を含む)を贈り、間接的に朴前大統領に口利きを働きかけたというもの。

 李副会長は、李健熙会長の長男でサムスンの3代目。2014年5月に李会長が突然、心筋梗塞で倒れてからは事実上の総帥となり、グループを完全に支配するための準備が着々と進められてきた。

 サムスングループは、グループ内の企業が互いの株を持つ「循環出資」という複雑な構造から成り立っている。サムスングループの中核企業は携帯電話のギャラクシーシリーズでお馴染みのサムスン電子だが、李副会長は同社の株を0.56%しか保有していない。それでも総帥たり得るのは、たとえばサムスン生命がサムスン電子の、そのサムスン電子がサムスン物産の株を持つなど、少ない株式でも回り回って巨大グループが掌握できるようになっているためだ。

 こうした構造上、李副会長がグループを支配するにはグループ内の2つの企業、旧サムスン物産と第一毛織(当時)の合併が不可欠だった。

 2社は2015年7月に合併が承認されたが、実は合併にはすったもんだの一幕があった。合併比率が不利だとして旧サムスン物産の大株主である米国企業が合併に反対の声をあげていたのだ。

 李副会長側は旧サムスン物産の筆頭株主だった韓国国民年金公団に合併に賛成してもらうよう朴前大統領と懇意だった崔氏に賄賂を贈り、大統領に働きかけてもらい、公団を自身に有利に動かした、というのが今回の裁判での韓国特別検察の主張だ。