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連載文春図書館 著者は語る

前田 久
2016/11/27

ベストセラー100万部突破!
作者自身を注ぎ込んで100万部超

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』 (七月隆文 著)

source : 週刊文春 2016年11月24日号

genre : エンタメ, 読書

ななつきたかふみ/大阪府生まれ。電撃文庫『Astral』でデビュー。『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は2015年度10~20代女性に最も読まれた文庫本(日販調べ)。近著は『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』等。

 桜庭一樹さん、米澤穂信さん、有川浩さんなど、「ライトノベル」(主に若者をターゲットとしたイラスト付きの小説)出身の作家が広く一般文芸の世界で活躍するようになって久しい。七月隆文さんもそのひとり。ただ、桜庭さんたちがライトノベルの中では異色の作風で知られていたのに対し、七月さんはポップなコメディを主に手がけ、長年ジャンルの本流に近いところを歩んできた。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』はそんな七月さんの初の一般文芸作品。100万部突破の大ベストセラーで、12月には福士蒼汰さん、小松菜奈さん主演の映画も公開される。京都の美大に通う〈ぼく〉と、秘密を抱えた美少女の束の間の逢瀬を、甘くせつなく描いた恋愛小説だ。ライトノベル作家として順調にキャリアを重ねる中、なぜ一般文芸に挑んだのか。

「ライトノベルの読者は基本的に、中高生から20代くらいだとされています。実態は必ずしもそうではないのですが。だから書く方も、なるべく若くなければダメだ。そのように以前の僕は考えていたんです。僕がよくなぞらえていたのは、野球選手の年齢です。20代でバリバリ活躍して、30代になったらベテラン扱い、40代になったらもう引退かな……と。ですから、僕も年齢を重ねたら、作品を発表する場を一般文芸にシフトしていこうというプランを立てていたんです。余談ですが、今ではこの考えは否定しています。今売れているライトノベルのほとんどは30代、40代の作家が書いていますから」と、七月さんは答える。

『ぼく明日』のアイデアが生まれたのは、執筆の数年前だという。

「まず、話の肝になっているトリックのアイデアをパッと思いついて、ほぼ同時にそれを恋愛ものにしようと考えました。誰も死なせずにせつない物語が描けるのがいいな、と。思いついたときはまだライトノベルを書き続けるつもりだったので、一般文芸でデビューするときまでとっておいたんです。ライトノベルと一般文芸の違いは微妙な肌感の違いなので、書きようによっては、そのアイデアをライトノベルにもできたんですけどね。ただ、その場合は読者層が違うので、今ほどは売れなかったと思います(笑)」

 ライトノベル出身作家の作品が一般文芸で成功を収めた例として、近年大きな話題を集めたのが「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。その著者の三上延さんと七月さんは、同じレーベルからほぼ同時期にデビューし、交流も深い。

「電撃文庫(ライトノベルのレーベル)の地味作家組みたいな感じで(笑)、三上さんとはデビュー以来ずっと仲がいいです。それがある日、彼が『ビブリア』でドーンと売れた。その姿に影響された部分はとても大きいですね。三上さんが『ビブリア』でやったことは、ライトノベルで培ってきた方法論をベースに、自分の好きなものや、経歴、経験を遠慮なく活かして作品を書くことだったと感じたんです。だから自分が一般文芸で書くときには、自分自身を作品に注ぎ込もうと思った。『ぼく明日』の舞台が京都なのは、僕が実際に大学時代を過ごした場所だからですし、登場する人物のほとんどにはモデルがいます」

天使は奇跡を希う (文春文庫)

七月隆文(著)

文藝春秋
2016年11月10日 発売

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 新作『天使は奇跡を希(こいねが)う』は、『ぼく明日』に似た空気感のある、青春恋愛小説だ。

「僕は『読者が何を期待しているか?』ということをとても気にするタイプの作家なんです。この作品は『ぼく明日』を読んだ人が、同じ作者の新作として期待するだろうものを、と決めて書きました」

 表紙はメガヒット中の映画『君の名は。』でキャラクターデザインを務めた田中将賀さんの描きおろし。同じく田中さんが表紙を担当した、監督の新海誠さん書き下ろしの『君の名は。』のノベライズも100万部を超えており、今作は100万部作家とイラストレーターの豪華なコラボが実現した、夢のような企画だ。

「田中さんにイラストをお願いしたのは今年の頭です。当然、『君の名は。』があそこまで大ヒットするとは思いもよらなかった時期で、神がかった流れになりましたね(笑)。ちなみに主人公の苗字が『新海』なのも、狙ったわけではないんです。物語上、ヒロインの苗字の『星月』に合わせて、『海』の入った苗字にしたかったのですが、これ以上の字面がみつからなくて……(笑)。『君の名は。』の監督の新海誠さんには、その経歴から、僕と同じように2000年前後に大きく盛り上がったギャルゲー(恋愛要素を主軸とした、物語要素の強いゲーム)文化の影響を感じます。ほかにも、ギャルゲー文化を通過した作り手が今、盛り上がっているように見えますね。新潮文庫nexから出た『砕け散るところを見せてあげる』が話題の竹宮ゆゆこさんであるとか。『ぼく明日』の中で、地の文なしで会話文が2ページ近く続くくだりもそうだったのですが、僕としてはかなり意識的にギャルゲーやライトノベルの文化を一般文芸に持ち込もうとしています。自分が好きなものを素直に出したいですし、一般文芸の読者にとって、それが新鮮で魅力的なものに映るんじゃないかという思いもあるので。最近は、そうした形で文化を繋ぐのが、僕の作家としてのポジションなのかもしれないなと感じています」

100万部コンビのコラボ実現!!『天使は奇跡を希(こいねが)う』
瀬戸内海の町・今治(いまばり)の高校に“天使”が転校してきた。優花の翼が見えるのは自分だけ? その天然キャラに振り回されっ放しの良史は彼女が天国に帰れるよう協力することに。幼なじみの成美と健吾も加わり世にも不思議なラブストーリーがはじまった。 文春文庫 630円+税