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月永 理絵
2017/09/08

長谷川博己インタビュー「黒沢清監督に衝撃を受けて映画界に」

映画『散歩する侵略者』出演を果たして

 いまもっとも旬な俳優にして、熱心な映画ファンでもある長谷川博己が、映画『散歩する侵略者』(9月9日公開)で、長く敬愛する黒沢清監督作品に念願の初出演を果たした。黒沢作品との出会い、その魅力の真髄から、撮影現場で目の当たりにした演出術まで、情熱的に語り尽くす。

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『スウィートホーム』の衝撃

——長谷川さんはもともと黒沢清監督の映画の大ファンだったとうかがいましたが、最初に見た黒沢映画は何だったんでしょうか。

1977年生まれ。東京都出身。映画・テレビドラマ・舞台など多くの作品に出演。主な映画出演作に『セカンドバージン』『鈴木先生』『この国の空』『二重生活』『シン・ゴジラ』など。©杉山秀樹/文藝春秋

長谷川 最初は『地獄の警備員』だったかな。大学か高校のときに見てこれはすごいなと思ったのをよく覚えています。ただこれはVHSで見た作品で、映画館で最初に見たのは『CURE』でした。どちらを先に見たのかはよく覚えていないんですが。とにかく黒沢監督というすごい監督がいるぞと驚いたのがこの二作品で、それがきっかけで映画界に入りたいなと思ったりしました。ああ、でもその前に『スウィートホーム』を見ていますね。あれは小学生ぐらいだったかな。もちろん当時は黒沢監督だっていう認識はなかったけれど、テレビでこの作品を見て、こんなにおもしろい日本のホラー映画は見たことがないと興奮しました。山城新伍さんも出ていたし、古舘伊知郎さんの体が分断されてウワーッと這いずりまわったりしているのがもう強烈で。素晴らしい映画でした。最後の、宮本信子さんと再会するところなんか本当にホッとした覚えがあります。

——そういう過去作品についてのお話は、今回の現場で黒沢さんともされたんですか?

長谷川 たくさんしましたね。現場では役のことについて聞いたりするよりも、そういう「あの作品ではどうでした?」というような話ばかりしていました。他の監督の映画についてはそんなに話さなかった気がしますけど。

——黒沢さんの現場というのはどういう雰囲気なのでしょうか。

「散歩する侵略者」
9月9日(土)全国ロードショー
©2017『散歩する侵略者』製作委員会
配給:松竹/日活

長谷川 やはり黒沢さんの映画の世界だなという感じがしました。黒沢さんの持っている独特のオーラがあって。すべての作品に共通していますけど、監督は常に、目には見えない何か、得体の知れない何かの恐ろしさを描いていますよね。たとえば『叫』だったら幽霊のような生霊のようなもの。『CURE』だったら何か黒魔術のような見えない力であったり。『散歩する侵略者』では、それが侵略者。侵略者は宇宙人というかたちで出てきますけど、結局のところ彼らが宇宙人かどうかはわからないんですよね。彼らは概念を奪う存在ですから、もしかしたら過去に人間から「宇宙人」という概念を奪い、その結果「僕たちは宇宙人なんだ」と言ってるだけなのかもしれない。そう考えると実は彼らの正体というのはよくわからない。でも何かふしぎな力を持った存在であるのはたしかだ。黒沢監督は、そういう何か目に見えないものを信じてる人だなと思うんですよ。そういう人がつくる映画なんだということは、現場の雰囲気からも感じました。『散歩する侵略者』は元々の戯曲からこの見えない力を信じるというテーマがあって、そこが、黒沢監督がこの戯曲を気に入られたひとつの要因なんじゃないでしょうか。