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牧野 知弘
2017/09/05

一泊二食付きの馬鹿げたシステムが日本旅館を滅ぼす

「料理長自慢の逸品」やブランド和牛にはお腹いっぱい

 夏休みの温泉地。都会からはひとときの「憩い」や「癒し」を求めて多くの客が温泉地を訪れる。日本は温泉に恵まれ、全国のどこに行っても、様々な効能の温泉を楽しむことができる素敵な国だ。外国人の中でも最近はこの日本の温泉地や有名観光地を訪ねる動きが顕著になっている。

 ところが、外国人には日本の旅館の評判があまりよろしくないようだ。温泉で裸になるのが嫌とか恥ずかしいという理由ではない。 

 問題は食事にある。日本の旅館の多くは「一泊二食」という販売形態をとる。日本ではごく当たり前といえるこの手法は実は日本独特のもので、外国ではメジャーなものではない。

 彼らは自分が食べる料理は自分で選択するのが当たり前。初めから料理が決まっている旅行は、ツアーならばともかく個人で訪れる旅行ではナンセンスだ。

お仕着せの料理でバカ高い宿泊料に……

 ところが、日本の有名な観光地や温泉地では宿泊先で供される料理はあらかじめメニューが決まっているものがほとんどだ。自分が食べたい素材や調理法などを選択する余地は一切ない。したがって日本での旅館に対する評価は、温泉の質や客室での寛ぎ以上に料理の内容が問われるというのが実態だ。

 もちろん、地場で採れる食材などを活用して素晴らしい料理を出す旅館も多いが、その多くは和食である。連泊をすれば、食材や調理の仕方を多少は変更してもらえるが、基本的には一週間も二週間も滞在するにはこのシステムはそぐわない。

数日滞在しようとすると法外に高い宿泊料になってしまう ©iStock.com

 日本では旅行は一泊二日からせいぜい二泊三日が主流であった。また、同じ場所にずっと滞在するといったスタイルの旅行は、温泉地における「湯治」などを別にすれば、基本的には次々と場所を移動していく物見遊山スタイルが一般的だった。

 それに対し、特に欧米人は長期にわたるバカンスを楽しむので、観光地や保養地などに来れば、基本的には一カ所に留まり、食事は周辺のレストランで自分の好きな食事を楽しむか、自ら食材を買ってきて調理して食べるのが一般的なのだ。

 ところが、日本の旅館は「お仕着せ」の料理を食べなければならない。たとえ自分があまり好まない食材であっても、食事代込の高い宿泊料を結果的に払わされることになるのだ。数日滞在したいと思っても、食事代込では滞在費は法外に高くなるし、だいいち食事に自分たちの好みも反映されない。

すべては宿の都合で成り立っている

 考えてもみれば、日本の旅館という業態はずいぶんと身勝手な存在だ。客は温泉地最寄りの駅に到着すると、改札を出るなり、駅前ロータリーで待ち構えていた「旅館名」を大書したマイクロバスに押し込められる。せっかく、駅前の商店街を覗いたり、ちょいと足湯に浸かってみたいなと思っても、提灯をもった宿のおじさん、おばさんが「こっちこっち」と手招きをする。

 マイクロバスは周囲の観光スポットなどには目もくれず、旅館までの道をまっしぐらに走る。

 宿に到着すれば、荷物は宿の人間の手によって自動的に部屋に運び込まれ、宿帳に必要事項を記載せよ、となる。宿帳への記入が終われば、お茶を飲むのもそこそこに今度は風呂に入れとせっつかれる。温泉からでてくれば、さあ「飯」である。温泉上がりはビールが定番。ビールを飲んでいる間に、次から次へと「料理長自慢」と称される逸品の数々がこれでもかと運び込まれる。もう少しゆっくりお酒を楽しみたいと思っても、そんなことはお構いなしにお造り、煮物、揚げ物、焼き物が食卓を埋め尽くす。最後に温泉地のある都道府県名に「牛」と付けたような「ブランド和牛」と称される、初めて聞くような銘柄のステーキなどが出されて、はいデザート、お茶である。

 食後はブランデーとチーズを、とか外国人が思ってもそんな要望に耳を傾ける素ぶりすらない。

 食事が終われば、「またお風呂をどうぞ」だ。宿の中ではとにかくやることがない。ちょっと街中を散歩しようにも、周囲は全部同じような旅館で寛げるようなバーもない。

 旅館は最後風呂に入ったらとにかく「寝ろ」だ。こうした一連の動きはすべて、実は「宿の都合」なのだ。食事代を込にして宿泊代を高くとる。街中をうろうろされて酒を飲まれても、お土産を買われても自分の懐に入らないので、なるべく客は旅館から外には出さない。そして迎える朝。朝食も魚の開きに卵焼き、かまぼこ、おしんこではい、おしまい。あとは清掃があるのでさっさとカネ払って出て行ってくれ。

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