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梶原 紀章
2017/09/04

【ロッテ】意外だった井口資仁の座右の銘

文春野球コラム ペナントレース2017

“好きな言葉”は戒めの句

「好きな言葉はありますか?」

 新しくマリーンズに入団してくる選手には必ずというほどそのことを聞くようにしている。好奇心によるものでもあるが、それを聞けば、選手の人生観、考え方が分かるような気がするのだ。忘れもしない09年1月25日。千葉市内のホテルでの入団会見を終えたばかりの井口資仁内野手にもこのことを質問した。

 メジャー4年間で494安打、44本塁打、205打点。安い言葉でいうと現役バリバリの大リーガー。チームメートもファンも我われ球団職員も胸躍る超大物選手の加入だった。そんな男が果たして、どのような言葉を胸に刻んで生きているのだろうか。固唾を飲んで待った。戻ってきた答えは自分の想像とはまったくかけ離れたものだった。

引退会見中の井口資仁 千葉ロッテマリーンズ提供

『実るほど頭を垂れる稲穂かな』。詠み人知らずの句。稲穂は実れば実るほど、重みで稲先を垂れ、頭を下げていく。そのことから、力がついて成功している時こそ、謙虚に生きていきなさいという戒めの句を教えてくれた。

 衝撃を受けた。これまでいろいろなプロ野球選手に出会い、話を聞いてきた。が、この句を好きな言葉に挙げた選手はもちろん初めてだった。そもそも句を紹介してもらうこと自体が珍しい。当時のマリーンズでいうと清水直行投手(現ニュージランド ナショナルチーム統括コーチ)が「やるしかないねん」。今江敏晃内野手(現イーグルス)が「頂点」。西岡剛内野手(現タイガース)だと「先憂後楽」。このように、どこか泥臭かったり、栄光に向けて突き進む言葉を座右の銘とするのがこの世界では常だと思っていた。だから背番号「6」が戒めの句を教えてくれたことは、とても新鮮で心を動かされた。

 この句が伝えようとしているメッセージとは人生をつねに謙虚に生きなさいという事。メジャーリーガーとしてワールドシリーズに出場しワールドチャンピオンに2度輝いたスーパースターは、いつどんな時も謙虚であろうという想いで日々を過ごしていたのだ。