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山内 宏泰
2017/09/09

フランス人写真家・ドゥパルドンが見た1964〜2016年の東京の変化

 現代フランスを代表する写真家、レイモン・ドゥパルドンの個展が、東京・銀座で開かれている。シャネル・ネクサス・ホールでの「DEPARDON/ TOKYO 1964-2016」である。

親日家が撮り続けた東京の姿

 1942年にフランス・ヴィルフランシュ=シュル=ソーヌの農村で生まれ、若くして報道写真家として立ったレイモンのもとへ、64年に大きな仕事が舞い込んだ。日本へ行って東京オリンピックを取材せよとのオーダーだ。

 世界中のどんなものでもこの目で見て、カメラに収めてやろうと考えていたレイモンは、喜び勇んで極東へやって来る。競技はもとより、街や人々の様子まで精力的に撮り歩いた。

撮影/著者

 その後も何度か、日本を訪問する機会には恵まれた。そのつど、街にカメラを向けた。最近では、2016年にも招かれて来日。もちろん写真を撮った。

 今回の展示では、1964年の初来日の際の写真から、昨年の来日時に撮影を敢行したものまで、異なる時代の「レイモン・ドゥパルドンによる東京」が並ぶこととなった。

 64年時のドゥパルドンのカメラは、オリンピックを心待ちにしてお祭り気分の人たちや、はにかみながら、ぎこちなく外国人選手と交流する日本人の姿を捉えている。撮る側の視線が、優しく愛情に満ちているのは写真を通して伝わってくる。

撮影/著者

 昨年の訪日で撮った写真は、ぱっと見の印象がガラリと変わる。縦長画面のカラー写真となり、ガラスの映り込みや反射を多用して、街にいる人を劇的に演出している。実際以上にスタイリッシュな東京が、画面の中に浮かび上がっている。

撮影/著者

縦長の写真のほうが文学的

 レイモン・ドゥパルドンはドキュメンタリー映画も多く手がける。フランスでは2012年に公開された『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』が、このたび日本でも上映されることとなり、上記の写真展もあるので来日したレイモンに話を聞いた。

©伊澤絵里奈

――1964年から2016年までの東京の姿を並べた写真展、東京の捉え方にずいぶん変化があったように見受けられます。

「そうですね、私が変わったのか、それとも東京が変わったのか……。どっちでしょうね。1964年に私が初めて東京に来たとき、すでにこの街は大都会でした。ただし、当時は街にアルファベット表記されたものは何もなくて、日本語を読めない私は地下鉄にも乗れなかった。

 今は、東京で写真を撮るのはずっと楽になりましたよ。海外から来た私がすんなり溶け込めるようになったので。もちろん変わらないものもあって、人の優しさや親しみやすさは共通していますよ。

 私は、街に出て人を撮るのが好きです。街にいる人は、その社会がどういうものであるかを、端的に表し明らかにしてくれますからね」

©伊澤絵里奈

――2016年に撮った縦長のカラー写真が、展示では際立って見えた。今の東京を捉えるのに適した手法を、みずから編み出した?

「そうです、今の東京らしさがよく出ているでしょう? 私は縦長の写真のほうが文学的だと思いますね。横長だと、もっと絵画的になる。

 1964年に撮った写真はモノクロで、2016年の写真はカラー。単に時代の違いだと言えなくもないですが、カラーは写真表現において重要な要素でもあります。カラー写真には、ノスタルジーがくっついてこないのです。私はそこが気に入っています。

 東京は魅力的だが、私の街ではない。私は(森山)大道でもなければ、荒木(経惟)でもありませんから、ここでノスタルジーを出す必要はなく、行き交う人をただシンプルに撮りたい。そう考えたとき、カラー写真はたいへん使い勝手がいいんですよ」