東京都新宿区本塩町にある、日本初の民間分譲マンション四谷コーポラスが建替えられることになった。
このマンションが分譲されたのは今から61年前の1956年。JR「四ツ谷」駅から徒歩5分の好立地。外堀通りの喧騒からも離れた閑静な住宅街にある。延床面積は2,290平方メートル(約693坪)、総戸数28戸。分譲主は日本信販株式会社だ。
マンション関連の法律の骨格をなす区分所有法が施行されたのが1963年であり、管理方法も含めてマンションというシステムがまだ構築されていない段階だったこと、かつ住宅ローンの制度がない中、日本信販による割賦販売という仕組みを導入しての分譲事業という意味でこのマンションの存在は日本のマンションの歴史そのものといってもよいだろう。
今般、このマンションの解体に先立ち内部を見学させていただく機会を得た。地上5階建ての建物内部は、1階と4階にしか共用廊下がなくメゾネットタイプの住戸を組み合わせた斬新な構成になっている。つまり、1、2階をメゾネットで組み合わせ、さらに4階を玄関として3、4階のメゾネットと4、5階のメゾネットを組み合わせた、昔流行ったルービックキューブのような構成の建物だ。
こうした形態をとることによって、当時では考えられないほど広い70平方メートル以上の面積を確保した住戸を実現できたのだ。
築61年を迎える建物はさすがに外壁やサッシ、配管などの老朽化は目を覆うばかりだが、木製のサッシや住戸内部の建具デザイン、学校と見紛うような幅広の共用階段など、「レトロ」と呼ばれてもよいほどの趣を随所に感じさせる建物となっている。
建物に対する建築学的なノスタルジーは他者の評論に譲るとして、さてこの建替えがどうして実現できたのかを考えてみよう。
旧耐震マンションの1%しか建替えが進んでいないという現実
四谷コーポラスの管理組合では2006年から11年間にわたって大規模修繕又は建替えの検討を進めてきたが、建物の耐震性の確保は難しいと判断し建替えの決議を行ったという。
現在国内では約106万戸の旧耐震マンション住戸が存在している。国土交通省によれば2014年4月時点で、全国で建替えが行われたマンションはわずか226棟にすぎない。昔のマンションは規模が小さいものが多いので、1棟が平均50戸としても建替えの恩恵にあずかった住戸は1万戸強。旧耐震マンション全体の1%ほどということになる。それほどマンションの建替えは様々な事情により進んでいないということだ。
本件は建替えを行っても、現状よりも容積率(土地面積に対して建設できる建物面積の割合)が1.2倍程度にしかアップしないという。28戸の住戸は建替え後は51戸になり、このうち23戸が権利者住戸、残りの28戸が新たに分譲される予定だ。建替えにはメリットは少なく、通常ではなかなか合意形成が図れないものと推察されるが、実際には権利者の9割が建替え後のマンション住戸の床を持つことに同意したとのことだ。
四谷コーポラスが建替えを成功に導けた理由は何だろうか。