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牧野 知弘
2017/10/31

不動産のプロから見た「素人投資が危険すぎる理由」

サラリーマンの副業でマンション経営が花盛りだが……

 最近、「あなたのマンションは勝ち組?負け組?」「値上がりする街、値下がりする街」という特集をしたいと、雑誌記者から取材やコメントの依頼を受けることが多い。長く不動産業界に身を置き、不動産投資に精通してきた私からみるとこうした質問に対しては「面食らってしまう」というのが正直なところだ。

 生活することの基盤についてよく「衣食住」という表現をする。このうち「衣」と「食」については、これを「財産」と考える人はいないし、特定の職業の方を除けばこれを「投資」と考える人もいないだろう。 

 ところが、いざ「住」となると日本人の多くがこれを「財産」と考え、「投資」とも考えている人がほとんどなのだ。

世界でも稀な「人口爆発国」だった日本

 戦後の日本は、一貫して地方から東京、大阪、名古屋といった大都市に激しい人口移動を続けてきたのは既知のとおりだ。鉄道、航空、高速道路といった交通網は地方から大都市に人々を「連れてくる」のに有効な手段として計画、建設されてきた。

 1945年終戦直後、7200万人に過ぎなかった日本の人口は1995年までのわずか半世紀の間に1億2000万人台に激増する、日本は世界でも稀な「人口爆発国」であったのだ。そしてこの間、地方から若者を中心に東京をはじめとする大都市に大量の人口移動が生じたのである。

 地方から大都市に移動した多くの若者は地方の農家の出身者で占められていた。実家は長男が継ぐ、そして次男や長女は大都市に進学、就職し、サラリーマンやその妻となっていった。彼らの多くは実家のある地方に戻ることはなく、東京などの大都市で定住することになったのだ。

地方出身者がマイホームを求めて続々と郊外に

 そこで彼らが求めたのがマイホームである。農家の出身者は土地に対する愛着が強い。農家では土地は常に収穫を通じて利益を生み出す存在であるからだ。彼らは地価の高い都心部でマイホームを持つことはできなかったが、都心部から郊外に向かって放射状に伸びる鉄道沿線に、多額の住宅ローンを組んで念願のマイホームを取得するようになる。郊外であれば、地方の実家ほどの敷地は望むべくもないが、家族が安心して暮らすことができる「土地」とその上にたつ「城」が持てたのだ。郊外には緑も多く、農家出身の彼らには郷愁をそそられる部分もあったかもしれない。また「家をもって一人前」との実家の賞賛も期待できたのだ。

 こうした若者は毎年、続々と地方から供給されていたので、住宅は常に「足りない」環境下にあった。つまりマイホームに対する需給バランスは常に「大量の需要」が湯水のごとく溢れかえる状況が続いたのだ。結果的には地価は急激に値上がりし、なるべく早い時期にマイホームを取得した者には、大きな「含み益」がもたらされることになるのである。

 地方の実家からみれば、次男や長女が東京で苦労して、会社に忠誠をつくし、出世して家を持つ、その家は農地と異なり作物を産み出したりはしないが、「売れば」農地では決して実現できないほどの高い利益を得られる「打ち出の小槌」と映ったとしても不思議ではない。

 そうした「成功の方程式」は現在でもマイホームを取得した人、これから取得しようとしている人にDNAとしてしっかりと組み込まれているようだ。自分が買った、あるいは買う予定のマンションは「値上がり」してほしい、との願望がこうした雑誌の特集号を買いに走らせているのかもしれない。