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近藤 正高
2017/11/29

ご存知ですか? 11月29日は大韓航空機爆破事件が起こった日です

実行犯・金賢姫が生き残ったことで明らかになった重大事実

genre : ニュース, 国際

 今月20日、アメリカのトランプ大統領が、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定すると発表した。アメリカ政府はこれ以前、1988年に北朝鮮を初めてテロ支援国家に指定したが、ブッシュ(子)政権下の2008年に解除していた。そもそも最初のテロ支援国家指定は、その前年の1987年11月29日に起こった大韓航空機爆破事件を受けてのことであった。事件発生からきょうでちょうど30年が経つ。

 韓国ソウル行きの大韓航空(KAL)858便がイラクのバグダッドを発ったのは、その前日の11月28日午後11時27分(現地時間、以下同)。同便はアブダビ(アラブ首長国連邦)とバンコク(タイ)を経由する予定となっていた。しかし29日午前4時前にアブダビから飛び立ったあと、ビルマ・ラングーン(現ミャンマー・ヤンゴン)の管制塔との交信を最後に消息を絶つ。そして午前11時21分、ラングーンの南約220キロの海上上空の地点で爆発し、乗客・乗員115名全員が死亡した。乗客の大半は中東での出稼ぎから韓国に帰る労働者だった。

 12月1日、日本の偽造旅券を所持していた男女がバーレーン空港で、韓国当局より連絡を受けた日本大使館職員により身柄を拘束される。二人はベオグラード(当時ユーゴスラビア、現在はセルビア)からバグダッドでKAL858便に乗り換え、アブダビで降りるとバーレーンに入っていた。だが、空港で現地警察の監視のもと検査中、男(70代)は青酸カリ入りのタバコを吸って自殺、女(20代)もそれを追おうとするが失敗した。このあと12月15日、彼女は口に自殺防止用のマスクをはめられて韓国に護送された。

韓国に移送される女工作員 ©共同通信社

 女は韓国での取り調べに対し、なかなか口を割らなかった。だが、12月23日、突然、女性捜査官の手を握り締め、「オンニ(姉さん)、ごめんなさい」とささやくと、ついに供述を始める。ここから彼女は、自分が金賢姫(キム・キョンヒ)という25歳の北朝鮮の工作員であり、翌年にソウルオリンピック開催を控えた韓国に打撃を与えるという使命を帯び、もう一人の工作員である金勝一(キム・スンイル)とともに時限爆弾を858便に仕掛けたことを自白した。彼女はその前日、ソウル市内に車で連れ出され、華やかな街の夜景を目の当たりにして、韓国は飢餓線上にあるとした北朝鮮政府の喧伝が完全な虚偽だったと気づいたという(趙甲済『〈深層取材〉金賢姫は告白する』池田菊敏訳、徳間書店)。

 彼女は取り調べに対し、大学卒業後に北朝鮮政府より秘密工作員に指名され、徹底した訓練を受けてきたことを供述した。そのなかで、日本から拉致されてきた李恩恵(リ・ウネ)と呼ばれる女性から日本語を学んだことも明かす。これを機に、日本と北朝鮮のあいだで拉致事件が外交問題として浮上する。李恩恵は1978年に失踪した田口八重子さんであると見られている。金賢姫にはその後、1989年に死刑判決が下されたが、翌年、大統領の特赦により刑を免れた。

特赦により死刑を免れた金賢姫(1991年撮影) ©文藝春秋