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製麺機オタクが作る年越しそばはどんな味? 秋葉原「あきば」の主人に聞いてみた

「手先の感覚は、AIとは別物だよ」

2017/12/12

 バブル時代の頃、「ベルリン・天使の詩」という映画をみた。天使がベルリンに降りてきて、詩を語りながら人間になるというストーリーだったように記憶している。蕎麦の世界にも、手打ち蕎麦界から大衆立ち食いそば界に降りてきた蕎麦打ち達人が経営している店がある。秋葉原にある「あきば」である。

昭和通り沿いにひっそりと

ミシュラン一つ星の手打ち蕎麦職人が、立ち食いそばに

「あきば」のご主人である石月準二さん(63歳)は日本橋室町にある「手打蕎麦むとう」で修業して腕を磨いた。ミシュランの★を獲得した名店である。その後、北区中里で「手打蕎麦いし月」を6年にわたり経営。紆余曲折あって一旦閉店し、2010年に「あきば」を開業し現在に至っている。

 石月さんが最新の製麺機を購入し、「あきば」で破格に安いそばを提供し始めた時、師匠筋から「どうかしちゃったんじゃないか」と随分心配されたそうである。本人も「プライドのかけらもない」と自嘲している。

「あきば」店主・石月準二さんは仙人のような人

 石月さんがなぜ手打ちから下界に降りて来るような経緯に至ったのか。それには深い理由があるようだ。

「手打蕎麦いし月」の時は、頂点に位置するような洗練されたそば粉を使って営業していたそうだ。しかし、売れ残ればそんな上質なそばも大量に捨ててしまうことになる。多くの手打ち蕎麦屋の個人店主が遭遇するつらい行為である。

「できればそんな無駄なことはしたくなかった」と石月さんは言う。そして、次のような結論に至った。「売れ残ってしまうような高級なそばにこだわるよりは、大衆そばでも安く食べてもらえるそばを作ろう」と決心したという。そばに対する深い愛情があることが想像できる。