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連載クローズアップ

“人命を救うアプリ”で世界注目のベンチャー100社に

春山慶彦(ヤマップ代表)――クローズアップ

2017/12/20
ヤマップ代表・春山慶彦さん

 今年11月、米メディアのレッドヘリングが世界で注目のベンチャー100社を選出するアワード「2017 Red Herring Top 100 Global」を発表。このリストに日本企業として名を連ねたのが、ヤマップだ。

 ヤマップは13年3月に登山用地図アプリ「YAMAP」をリリースし、現在、70万ダウンロード超、月間閲覧数1億回を誇る。特徴はスマホで閲覧できる登山用の地図とオフラインでも稼働するGPS機能をマッチングしたことで、これによって電波が通じない山中でも自分の位置を見失わずに済むようになった。

 一部の山岳救助隊でも使用されているこのアプリのアイデアは、ヤマップの代表、春山慶彦さんがアラスカで目にした光景が原点となっている。

 一浪して同志社大学に入った春山さんは机上の勉強に飽き飽きして、山や海など自然のなかで多くの時間を過ごすようになった。その時に出会ったのが、写真家の故・星野道夫さんの著書だった。

「アラスカで現地の自然や動物を撮り続けた星野さんの著書を読み漁っているうちに、僕がやりたかったのはこれだ! と確信したんです」

「頭がおかしくなったのか?」と首をかしげる両親をなんとか説得し、アラスカ大学フェアバンクス校の野生動物管理学部を受験、入学した。

 憧れのアラスカに渡った春山さんは、休みの度にイヌイットの村を訪ね、アザラシやクジラの漁に同行。写真を撮って伝統的な漁を記録しながら、アザラシやクジラの解体を手伝った。その漁の時に、イヌイットの老人がGPSを使いこなす姿を見て驚嘆した。

「おじいさんが『どんなに海が荒れても、宇宙の視点で自分の位置がわかる、だからGPSさえあれば家に帰ることができる』と言っていたんです。漁は命がけの営みだから使えるものはなんでも使って、目的を果たして家に帰る。こうした彼らの道具に対する姿勢に共感しました」

アプリ「YAMAP」の画面

 アラスカで2年半をすごした後、帰国。東京で雑誌編集の仕事に就き、10年に故郷の福岡に戻って編集プロダクションを立ち上げた。そして休日に登山中、スマホの電波の通じない場所でも衛星と連動するGPSは稼働するということに気づいた時に、イヌイットの老人の言葉が電撃的に脳裏に甦ったのだった。

「GPSは命を守る道具になる。スマホで地図と連動させれば、遭難事故を減らすことができると閃(ひらめ)きました」

 それからは、何かにとりつかれたようにアプリ開発に邁進。そうして2年をかけて完成したのが「YAMAP」だ。

 春山さんのもとには、「遭難しかけたけど、YAMAPのおかげで助かった」という連絡がしょっちゅう届く。この声を世界に拡げるために、グローバル展開を準備中だ。

登山中の春山さん(提供ヤマップ)

はるやまよしひこ/1980年、福岡県生まれ。同志社大学に入学して間もなく、偶然の縁から屋久島で1カ月を過ごし、自然の魅力に目覚めた。アラスカ大学に在学中、イヌイットのアザラシ漁に同行した際に海が大荒れし、死を覚悟したことも。アザラシやクジラの解体ができる珍しい起業家。

取材・文:川内イオ