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「打率.162」でOK!? ヤクルト・大松尚逸が見せた数字以上の働き

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2017/12/16
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「年俸800万円」の男が見せた精一杯の奮闘

 大松の今季の評価を決定する参考として17年シーズンの年俸を調べようと、手元の選手名鑑を手にする。「……アレ、背番号《66》が載っていない」と、とまどった後に、ふと思い出す。

(あっ、そうだ。キャンプイン後のテスト入団だったんだっけ……)

 キャンプ終盤の2月17日にテストに合格し、19日に入団発表を行った大松。2月上旬に発売される選手名鑑に大松の名前が掲載されていないのは当然のことだった。仕方がないのですぐにググってみると、その年俸はわずか800万円だという。そうか、そんなに薄給だったのか……。2011年には7800万円を稼いだ男が、今季は800万円だったのだ。右アキレス腱断裂という大ケガから見事に復活を遂げた大松は、十分、給料以上の働きをしているではないか。そういえば、現役晩年には同じく「代打の切り札」としてチームに貢献した真中氏はこんなことも言っていた。

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「代打というものは本当に難しいものなんです。確かに打率は低いかもしれないけれど、あの2本のサヨナラホームランといい、大事な場面で大松の一打がチームに勇気や勢いを与えた場面は意外とありましたよ。それで十分なんです」

 なるほど。やはり今季の大松は、苦境にあえぐチームにとってなくてはならない存在だったのだ。ならば、ヤクルトファンとしては「打率.162」という数字に感謝の気持ちを持つべきなのだろう。打てなかった「.838」を嘆くのではなく、見事にヒットを、ホームランを放った「.162」という数字に感謝し、誇りに思うべきではないのか? そして、来年こそはもう少し数字を上げてもらえるように、力強い声援を送るべきではないのか?

 ようやく、迷いは吹っ切れた。「打率.162」の大松は、やはり今季のヤクルトにとって貴重な代打の切り札だったのだ。できれば、もう少しいい数字を残してほしかったけれど、それが「96敗」の現実なのだろう。満身創痍、崖っぷちの男が残した「打率.162」という数字を深く噛みしめながら、僕は来季の大松尚逸のさらなる活躍に今から期待しているのだ。

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