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井上 幸太
2018/01/26

契約選手は筒香と大引のみ 野球グラブ界の“陸王”の挑戦

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

 昨年放送されたドラマ『陸王』でも描かれていたように、優秀なアスリートを巡るスポーツメーカーの戦いは熾烈を極める。プロ野球の場合、連日テレビ中継での露出が期待できる一軍レギュラークラスの選手は文字通り「争奪戦」が繰り広げられることも珍しくない。これを使ってください、ぜひウチのものを……。各メーカーが意中の選手を射止めるために奔走するのだ。当然資金力のある大手になるほど、抱える契約選手の数も増え、広告効果は大きくなる。

 そんな中、「プロから求められる、声をかけられるクオリティーを追求する」という方針を掲げ、契約選手は少ないながらも、プロ野球界でもジワジワと認知度を高めているメーカーが存在する。その名は「アイピーセレクト」という。

選手と「同じ目線」に立つ

 現在プロ野球界での契約選手は筒香嘉智(横浜DeNA)、大引啓次(東京ヤクルト)の2名。数十名の選手を抱える大手メーカーに比べると、かなり少ない数だ。同メーカーを2009年に立ち上げ、現在は「トータルプロデューサー」として携わる鈴木一平(すずき・たいら)氏は「むやみにこちらからアプローチはしていない」と語る。それはなぜなのだろうか。

「メーカーに求められるのは選手と同じ目線で意見を交わして、共通の目標に向かっていくこと。そのためには先ず、選手主動で『このグラブを使ったらパフォーマンスが向上しそうだな』と思ってもらわないといけません。そう思われる、選んでもらうために相応のクオリティーをメーカーとして追求する。『使いたいな』と思ってもらえていない状態で、選手の成長に繋がるような提案をするのは難しいと思っています」

 プロ選手契約第一号となった筒香とは2013年に販売契約を結んだプロスペクト株式会社の代表を務める瀬野竜之介氏を介して縁が生まれた。自身の方針と筒香の持つ野球観が合致し、筒香は2014年から公式戦でグラブを使用。2016年に契約を結んだ。契約に至った背景を次のように振り返る。

2014年から公式戦でグラブを使用している筒香嘉智 ©文藝春秋

「持っている能力はもちろん、人間性も抜群だった。鋭い感性で色々な質問、意見をくれるので、それに応えていくことで彼と共にブランドも成長できると思いました」

 選手の成長、パフォーマンス向上のためには「ただ要望に応えるだけではダメ」と鈴木氏は語る。

「選手の要望に応えるだけではなく、『そうか!』と唸るような一歩先を見た回答を用意する。選手が1年後にどうなりたいかをイメージするなら、こちらは『5年後』まで考えて、そこから1年後の姿に落とし込む。ここまでやってこそ、選手の成長に貢献できると思っています」

 ここで鈴木氏は契約選手の1人、大引とのやり取りを例に挙げた。

「彼はベテランとも呼べる年齢で技術のベースも完成されている選手です。でも、先々を考えたときに捕球の引き出しを増やしたい。なので、今回その技術に繋がるようなグラブを渡すことにしたんです」

「アイピーセレクト」のグラブを使用する大引啓次 ©文藝春秋

 選手の描くイメージの一歩先を見据えているからこそ、伝えられることがある。これも鈴木氏がこだわる「同じ目線」に立つからこそ為せる技だろう。