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北朝鮮の“微笑み外交”が韓国人にウケない理由

「『統一』という言葉さえ出せば涙するものと思っているのか」と反発の声

2018/02/16
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 北朝鮮の金与正朝鮮労働党中央委員会第一副部長の訪韓が、“微笑み外交”として内外で注目を集めている。

 韓国では2泊3日の滞在中、その一挙手一投足をメディアが追いかけたが、終始ポーカーフェイスの微笑みを纏い、顎を上げて歩く姿が印象的だった。

サムスンの李在鎔副会長も同じ姿勢だった

 そんな姿をテレビで見た40代の会社員は、「どこかで見たような表情だなあと思ったら、サムスンの李在鎔副会長も同じ姿勢なことに気がつきました(笑)。“ロイヤルファミリー”というのは、南も北も共通する帝王学があるのでしょうねえ」と笑っていた。

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 北朝鮮の労働新聞は2月11日、金与正第一副部長の訪韓の成果を写真付きで大々的に報道。文在寅大統領の姿が、奇しくも初めて北朝鮮で披露されるというハプニングも。

平昌オリンピックで女子アイスホッケーの試合を観戦する金永南常任委員長(左)と金与正第一副部長(右) ©getty

 中道派の全国紙記者が解説する。

「韓国との首脳会談に持ち込んで、なんとか非核化せずに難局を乗り切ろうという北朝鮮の思惑が透けて見えます。金与正第一副部長が文大統領に『近いうちの訪朝を』と金正恩朝鮮労働党委員長のメッセージを伝えた後、青瓦台(大統領府)では会談に向けた議論が進んでいるといわれ、韓国側は何としてでも米韓合同軍事演習前にセッティングしたいところでしょう。

 文大統領は金与正第一副部長との席で、南北会談は『条件が整えば』と答えていますが、最大の鍵だった米国が態度を軟化させようとしています。すぐにでも北朝鮮に特使を送るのではないかという観測が流れていて、その候補者には徐薫国家情報院院長と趙明均統一相、任鍾ソク青瓦台秘書室長(ソクは析の下に日)の名前が上がっています。今のところ青瓦台は『まだその段階ではない』と否定していますが、完全に水上の鳥。水面下ではせわしなく動いている。ただ、任室長については“主思派”(故金日成主席の主体思想を理念としていた80年代の学生運動の一派)として“色”がついていますから、人選としては厳しいとの見方もあります」

南北首脳会談の条件は、まず米国の同意

 アメリカのペンス副大統領は、平昌オリンピックのレセプションには遅れて入り、5分ほど挨拶をした後、早々に退席した。開会式などでも金与正第一副部長一行とは目も合わせなかった。ただ、ワシントンポストのインタビューで「北朝鮮が非核化への有意義な一歩とみなされる行動をとるまでは圧力は低下しない」としながらも、「対話を望むのであればわれわれは応じる」と話したのに続き、ティラーソン国務省長官も「北朝鮮が米国と真摯な対話を行うか、その決心は北朝鮮次第だ」と語り、対話に傾くような発言が見られた。

「南北首脳会談の条件は、まず米国の同意。これには核・ミサイルの凍結など金正恩委員長の意思表明が前提になります。そして、もうひとつが韓国の世論です。今回の北朝鮮の動きに対して韓国世論の冷え込みが目立っていて、文政権はヘタすれば国内で窮地に追い込まれる」(同前)

 金正恩委員長は、外交の最大の目玉として金与正第一副部長を送り込んだ一方、“美女応援団”と三池淵管弦楽団を派遣して韓国世論の懐柔を図ったとされたが、こちらはどうも当てが外れたようだ。