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植田日銀を金融のプロ2人が一刀両断「やはり学者の先生なので、マーケットを見誤っている」

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経済評論家の藤巻健史氏と元日銀理事の山本謙三氏による対談「植田日銀を解剖する」を一部転載します(文藝春秋2023年7月号)。

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植田総裁の人物評は?

 藤巻 この4月、10年ぶりに日本銀行の総裁が交代し、経済学者の植田和男氏が就任。異次元緩和の副作用が目立つ状況を植田新総裁はどう立て直すのか。日銀出身の山本謙三さんと論じていきます。山本さんとは長いお付き合いになりましたね。

 山本 初めてお会いしたのは1987年ですよ。私は30代前半で、ニューヨーク勤務から東京へ戻り、外国銀行の担当になったとき、アメリカのモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)にいらした藤巻さんとお会いした。藤巻さんは30代の後半で、すでに「伝説のディーラー」と呼ばれていました。

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 藤巻 山本さんの見識、知識は私が知る中でも抜きんでていました。日銀の理事、一般企業でいえば役員を務められましたが、私は将来の日銀総裁だと思っていましたよ。私はあまり他人を褒めないのですが。

 山本 面はゆいですね(笑)。2012年に日銀の理事を退任しまして、現在は金融政策などについて情報発信をしています。

 藤巻 その日銀総裁に植田和男氏が就任したのはどう見ていますか。

 山本 私は植田先生を直接、存じ上げているので納得できます。98年4月に金融政策決定会合が創設されましたが、植田先生は審議委員、第一期生。私は運営に携わっていたので、多くの接点がありました。植田先生は理論と現実の一方に偏ることなく、丁寧に両方を検証しながら議論を進めておられたので、日銀内部の信頼も厚かった。

 藤巻 私は驚きましたよ。というのも、過去、植田さんは金融緩和に対して、強い警戒感を表明しているからです。2001年3月の金融政策決定会合では「(買いオペで)期待インフレ率が上がって金利が上がっていったり、景気がよくなっていくとなれば良いが、ならないと地獄になる」と発言。「出口となるストラテジーがない」とも言っている。

山本謙三氏 ©文藝春秋

 山本 「買いオペ」とは、市中から日銀が国債を購入するオペレーションのことです。

 藤巻 金融緩和とは、金融機関が日銀に設けている当座預金の残高をふくらませて、そこから世間に出回るお金を増やそうという手法です。日銀は、民間金融機関が保有する国債を買って、代金を日銀当座預金へ払い、残高をふくらませた。植田さんが「地獄になる」といった頃の残高は5兆円程度でしたが、それが今や約553兆円ですよ。

 山本 異次元緩和で大量の長期国債を購入しましたから。

 藤巻 地獄にはならないと思ったから、総裁職を引き受けたのでしょう。真相は藪の中ですが、総裁候補にあがった日銀の現役、OBは就任を断ったように、私には見えました。総裁職といえば垂涎の的ですよ。それを断ったということは、いま総裁になるのは、火中の栗どころか、火中の地雷を踏むようなものであることを示しているのでしょう。