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不動産がAIオタクに支配される時代へ

旧態依然とした業界にも不動産テックの荒波が

2018/03/06
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 時代はAIだ、IoTだと騒がしい。そしてこれらの技術革新が不動産の世界にも及ぶだろうということで最近では「不動産テック」なる造語まで登場してメディアを賑わせている。

 こうした議論が起こると必ず面白おかしく取り上げられるのが、その業界で生きている人たちの仕事が消滅し、大量の失業者が生じるというネガティブな話だ。銀行員はそのほとんどが業務を失い、リストラされる、あるいは税理士業務のほとんどはAIにとってかわられるだろうなど世の中は物騒な話でいっぱいだ。

度胸のある体育系が重宝されきた不動産業界

 さて不動産の世界では何が起こるのだろうか。不動産という商品はこれまで「グローバル化」とか「技術革新」といった世界とは全く無縁の存在だった。また不動産は読んで字のごとく「動かせない」商品であることから、常にドメスティックな存在であり、国内の多くの業界が直面したグローバル化の波からも一歩距離を置くことができていた。

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「グローバル化」という言葉に縁のないシーラカンス的存在だった不動産業界 ©iStock.com

 私が不動産業界に入ったころは、不動産会社に入る学生はおおむね「算数できない、英語できない」というのが通り相場だった。つまり不動産を扱うにはごちゃごちゃ理屈を並べるのではなく、必要なものは度胸とドタ勘だけ。不動産はいわば「とったもの勝ち」で、不動産価格は勝手に右肩上がりで上昇するものであるから体育会でみっちり鍛えられた、力があって勝負勘の強い学生が珍重されたのである。

 だが、このシーラカンスのような存在だった不動産業界にも2つの大きな流れがやってきた。ひとつが不動産の証券化による金融マーケットとのつながりであり、もうひとつがAIやIoTに代表される技術革新だ。

「算数できない、英語できない」でもOKだったのも今は昔

 不動産の証券化は、不動産を金融という技術を使ってペーパー(証券)化することによって、不動産をよく知らない素人でも扱うことができる金融商品に仕立て上げることに成功した。不動産はそれまでは完全な玄人マーケットだったのである。つまり、一部の不動産会社やたまたま広い土地を所有していた地主が金融機関からおカネを借りてビルやマンションを建設し、テナントに貸し出すというのがビジネスモデルだったのだ。

 ところがこれを金融商品にすることによって、世界中の投資家のおカネを集めてきて中古の不動産に投資をさせる、開発して新しいビルやマンションを建設するための資金を調達することが可能となったのだ。またREITに代表されるように多くの不動産が証券化されて、一口数万円で誰でもが不動産オーナーになる道が開けたのである。

 こうした革命を通じて、これまで不動産業界人は「算数できない、英語できない」人間でも勤まったのが、緻密な収支計算のもとで利回りを算出して投資家に配当しなければならなくなり、外国人投資家には英語で彼らが興味を示す不動産の説明をしなければならなくなったのだ。

旧態依然とした業界にも不動産テックの荒波が押し寄せる

 金融マーケットという日々変動するマーケットに翻弄され続けてきた不動産業界に、さて次なる革命の波が襲いかかってきている。不動産テックの波である。

 不動産取引においては売買する場合でも賃貸する場合でも、不動産会社には重要事項説明という行為が必要になる。重要事項説明とは取引に際して重要と思われる項目について、宅地建物取引士の資格を持つ者が、関係者の面前で説明をしなければならないもので、取引する人が遠隔地に住んでいても実際に足を運んで説明する必要があった。

 スカイプなどが発達した現代においてこうしたシーラカンスのような業界のルールは、とりわけ日本の不動産を外国人が買い求めるようになると取引上での大きな障害として指摘されるようになった。

 国もようやく昨年の10月から賃貸仲介に限ってネット上での説明を認めるように法律の一部を改正したが、売買についてはまだ慎重な姿勢を崩していない。