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「バイプレイヤーズ」Pが語る「大杉漣さんが愛された理由」

プロデューサー&監督 浅野敦也氏インタビュー

2018/03/06
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真夜中の真剣な話し合い

浅野 あの光景は忘れられません(笑)。僕1人で6人と対峙している、すごい体験をしているなと思いながら、お話を伺いました。要約すると、撮影してみて「やりたいこととなにかが違う」とみなさんが感じられたということだった。衝撃を受けましたし、正直悔しかったです。でも、みなさんは不満をぶつけたかったわけではなく、真剣にこのドラマをやりたいから、夜中過ぎまで待って、僕に気持ちをぶつけてくださった。それは本当にありがたかったですね。

――それからどのように調整していったんですか?

浅野 元の台本は物語がかっちりしていて説明しなければいけない部分も多かった。決められたことをそのまま演じるのは、この6人が集結してやることではないんじゃないかと。そこで台本をシェイプして余白を作り、アドリブを加えられるようにしました。尺が足りないときや本人役の説明の補完でドラマ部分の撮影後に飲みながら自由に話す様子も撮れば、と松重さんが提案してくださったんです。それが最後に流れる「バイプレトーク」のはじまりです。

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 そんな経緯がありながら、結局はほぼ元のストーリー通りに演じてくださいました。たくさんアドリブが入って、それがまた面白い。ですから、第2弾は自由度を増し、キャストの皆さんの掛け合いによって違うシーンになっても成立するぐらい、ストーリーを極力シンプルにするという、連ドラとしてはチャレンジングな構成にしたんです。それも、あの夜に大杉さんが「浅野くんと話そう」と呼び戻してくださったことから、試行錯誤をしながらたどり着けた形なんですよね。

「大杉さんは一番チャレンジャーなんですよ」

――第2弾にシークレットゲストが毎回登場するのも、余白を作るためですか?

浅野 前作から、ドラマの決まりごとに沿わなくてもいいんじゃないかと、みなさんおっしゃっていたんです。その上で、大杉さんと松重さんが、「サプライズゲストが突然やってきて、どう対処するかを見せるのも面白いんじゃないか」とご提案くださいました。

――オープニングの海から登場するというアイディアも、大杉さんが考えられたんですよね?

大杉さんの提案で、海から颯爽と登場する5人。波に抵抗しながらスマートに歩くのは至難の技だったとか。 ©「バイプレイヤーズ2018」製作委員会

浅野 そうです。大杉さんは最年長でリーダーですが、一番チャレンジャーなんですよ。結果はともかく、いろんなことをやってみたい。挑戦することに価値があるとおっしゃる。大杉さんがそうだから、ほかのみなさんも「大杉さんがそう言うなら、やろうか」という流れにいつもなっていきましたね。

――大杉さんは37歳までは転形劇場で沈黙劇を、そのあとはロマンポルノに出演され、40代で北野武監督に見出され、映像の世界で活躍されます。そういう様々な経験が、失敗を恐れない自信につながったのでしょうか?

浅野 自信なのかどうかはわかりませんが、転形劇場で、言葉を使わずに「居るだけで見せる」という経験を積まれたことは大きかったと伺ったことがあります。一方、北野監督の『ソナチネ』の電話番役では、大杉さんがカットがかかるまでずっとしゃべり続けていたというエピソードがありますよね。『バイプレイヤーズ』でもそうなんです。カットをかけなければ、延々話せる。あそこまで素に戻らずに演じ続けられる、しかも、ずっと面白いというのは本当にすごいと思います。