『日本再興戦略』(落合陽一 著)――著者は語る
科学者、教育者、メディアアーティスト、起業家とさまざまな顔を持つ落合さん。横断的な仕事の経験を基に、テクノロジー、政治、経済、外交、教育、リーダーなどの切り口から日本再興のグランドデザインを描いた。
「この本を作った問題意識には、ベンチャー企業を立ち上げ、筑波大の助教を辞めて学内に再度産学連携プロジェクトを設立したことが影響しています。国立大学の教員という立場を飛び出し、新しい研究と教育システムを模索するようになって感じたことが土台になっています」
その考えの根底には、江戸時代以前の「百姓的な生き方」があるという。
「これからの社会は、AIにより仕事が奪われると言われる時代です。しかし、『どの職業がダメになるか』と捉えるのではなく、『コミュニティをどのように変えたら、次の産業革命を乗り越えられるか』を考えることのほうが本質的な問題です。その点、百姓というのは、百の生業を持つことを意味していますから、複数のコミュニティを自由に行き来できる生き方のことです。これまでの近代的な枠組みの中で一つの仕事に埋没するのではなく、多様な生き方があったほうがいいと考えています」
本書には、旧来の常識を捨て、新時代を生きるためのヒントがちりばめられている。落合さんは、そうした意識変革を「アップデート」と呼ぶが、各章末に設けられた注釈もそのための試みである。
「この本のポイントは、注釈を多く設けたことです。僕は日本語がアップデートされていかないと、我々はコミュニケーションが取れなくなるのではと考えていました。例えば、『信用』という言葉は、金融用語の『信用創造』で使われる『クレジット』と、人の信頼を示す『トラスト』では全く意味が異なります。同様に、この本も日本語の意味を改めて定義していかないと、誤読されるのではないかと思ったんです。そういう意味では、思考実験という側面もありました」
本の制作過程も実験だったという。
「これまで出版した何冊かもいろんなスタイルで作ってきたのですが、今回は半年近くかけて行なったロングインタビューを、聞き手であるNewsPicksの佐々木紀彦編集長が構成するという形を取りました。お互いの対話はうまくいったものの、それでも発生する言葉の認識の齟齬をどうやって埋めるか試行錯誤しました。非常にポジティブな挑戦だったと思っています」