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不動産業界が「働き方改革」を恐れる意外な理由

続々竣工中の巨大なオフィスビル群を待ち受ける末路とは?

2018/04/17

 働き方改革をめぐって今、世間が喧しい。厚生労働省によれば、我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面している中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題だとしている。

多様な働き方を目指す「働き方改革」

 こうした問題認識のもと、厚生労働省は働き方改革について次のように定義づけている。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。(厚生労働省HPより)

 このスローガン自体は特に問題はないはずだったのが、具体策の中での裁量労働制の拡大や時間外賃金の削減、長時間労働の是正などを巡って、国会での説明データの誤りなどが発覚し、野党やメディアにつつきまわされている状態だ。

 そもそも、当初は大手広告会社の新入社員の自殺や大手不動産会社社員の過労死などをセンセーショナルに取り上げて働き方改革を推進する上での「仮想敵」をこしらえることで世論を味方につけようとしたのだろうが、やや拙速に事を進めようとして深みにはまってしまったような印象も受ける。

都心部に続々竣工する巨大オフィスビルを見学すると……

 こうした騒ぎとは別に、今不動産業界ではこの働き方改革に「戦々恐々」なのだ。大手不動産会社の一角が「働き方改革」に逆行する対象として糾弾されたから「こんどはウチかも」といったような話ではない。「働き方改革」がどんどん進行していくと不動産業界の地図が様変わりするのではないかという恐怖である。

 最近都心部に続々竣工する新しいオフィスビルは、どれも航空母艦のような威容を誇る。今のところテナントの入居は順調のようだが、実は新しいビルを見学すると内部にシェアオフィスのスペースを設けているビルが増えてきていることに気づく。

都心部では巨大なオフィスビルが続々竣工中 ©iStock.com

 シェアオフィスというと思い浮かぶのはオフィスフロアを細かく間仕切って、会議室などを共用部としてシェアし、また受付なども一緒にすることで会社のランニングコストを節約しようというものだ。利用するのはスタートアップしたばかりの企業が主体だ。起業はとにかく金がかかる。これまでは一人や二人で起業すると、普通のオフィスは借りられず、マンションの部屋などを借りてオフィスとして使用するのが関の山だったが、このシェアオフィスを利用すれば何かと便利。しかも他の起業家とも情報交換ができビジネスにも役に立つというものだった。

大手企業でも劇的に変化しつつあるワークスタイル

 ところが、最新鋭ビルに設置されるシェアオフィスはどうもこれまでのシェアオフィスと様相が異なる。豪華すぎるのだ。そして利用料もめちゃ高だ。広々したロビーや高価な家具が置かれた打ち合わせスペースはもとより、ドリンクを飲みながらメールをチェックする、ちょっとした資料作成を行うような利用者の姿が目に付く。運営するデベロッパーに聞くと、実は会員となっている企業にスタートアップ企業はほとんどなく、多くが大手企業だという。最近の大手企業は一人に一つのデスクを与えて9時から5時まで座って勤務するような形態がどんどん減っているという。フリーアドレスといって自分のデスクを持たずに好きな場所で仕事する。ワークスタイルは今劇的に変化しつつあるのだ。

 大手企業がこのコワーキングスペース(最近ではシェアオフィスと言わずコワーキングスペース<Coworking space>などという)を使う理由は、自らたくさんのオフィス床を借りずに社員は「放し飼い」にして外に出し、コワーキングスペースに立ち寄って報告書や資料を作成させるのである。

大手企業も社員を「放し飼い」に ©iStock.com

 また新規プロジェクトなどを立ち上げる時も社内にスペースは設けずにコワーキングスペースに数名の社員を放り込んで仕事させる。社内に部署を作らなくてもコワーキングスペースなら変幻自在だ。プロジェクトが思うようにできなかったとしても撤収は早い。