文春オンライン

テレ朝女性記者による告発は、ジャーナリストとしてまっとうな行為だ

財務次官のセクハラ疑惑を考える

2018/04/23
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 財務省・福田淳一事務次官のセクハラ疑惑が、ひどいことになっている。被害を訴え、『週刊新潮』に情報提供したとされる女性記者の名前や写真がネット上で暴露され、批判され、事実に基づかない誹謗中傷まで飛び交っているのだ。被害者が新たな被害にさらされているうえ、このような二次被害を恐れて、今後、セクハラ被害の申し立てを尻込みする人が増えるのではないかとも懸念される。

最初の批判はテレ朝の会見の中だった

ジャーナリストの江川紹子氏 ©文藝春秋

 最初に彼女の批判がなされたのは、こともあろうにテレビ朝日の記者会見の中でだった。同社は、「当社社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為であり、当社として遺憾に思っています」との見解を示し、女性社員も反省していると述べた。

 一方で同社は、録音は「自らの身を守るため」に行ったものとも言っている。第三者の目撃者もいない状況で行われるセクハラは、証拠がなければ、加害者が否認した場合には被害が認められず、うやむやにされてしまう。今回も、福田次官や麻生財務相は、音声データの一部が公表された後でも、女性の声を含めた全てが公表されていないとして、セクハラの事実を認めない。録音データなしに被害を訴えても、まったく相手にされなかったろう。

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 今回の件は、女性記者が相談した上司が、自局では報道できないと1人で判断し、財務省への抗議もしていないなど、会社側の責任は重い。テレ朝は、音声データという証拠がありながら、適切に対応できず、彼女がそれを第三者(週刊新潮)に提供する状況を作った会社の非をもっぱら反省すべきであって、彼女の行為を批判できる立場ではない。

「報道倫理」に触れると問題視する声もある

 この記者会見の質疑やその後の報道で、女性記者が相手の同意を得ずに録音していたことや、それを他社に提供したことを、「報道倫理」に触れるとして、ことさら問題視する報道機関もある。

「テレ朝『録音提供 不適切』」と報じた4月19日の読売新聞

 その筆頭が読売新聞だ。テレ朝の会見を報じた4月19日付朝刊の社会面では、〈テレ朝「録音提供 不適切」〉の見出しで、「識者からは今後の取材活動への影響を懸念する声も上がっている」と書いた。記事の趣旨に沿ったコメントを寄せている「報道倫理に詳しい元共同通信記者の春名幹男・元早大客員教授」は、テレ朝の対応を批判する中でこんな発言もしている。

「音声データが週刊誌に提供されたことで、結果的にセクハラという人権上の問題が興味本位に扱われた面があったことは残念だ」