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日大アメフト部・内田正人監督の辞任会見は、なぜ誠意が感じられなかったのか

臨床心理士が言外の「仕草」を分析する

岡村 美奈 2018/05/22

「誰が被害者か」という視点が抜けていた

 また、ピンクのネクタイは、内田監督がここで辞任を表明したことと関係があるだろう。

 もしこのような問題が起こっておらず、これが単なる辞任会見だったなら、監督として最後の場にピンクという色を選ぶというのもわからないでもない。そう考えると、謝罪より自らが辞任するという進退問題の方が、内田監督にとって重要だったと思える。これは内田監督にとって「謝罪会見」ではなく、「辞任会見」なのだ。

 そう考えれば、会見の流れも納得がいく。カメラの前に立った内田監督が最初に述べたのは、報道陣に対しての弁解と謝罪だった。もし謝罪を優先し強く意識していたのなら、たとえ面と向かって謝罪してきたばかりといっても、公の場でまず初めに、関西学院大に対する謝罪もしくは謝罪したという報告がなされたのではないだろうか。しかし、会見でそのような発言はなかった。「誰が被害者か」という視点が抜けていたのも、辞任表明が主の会見だからだ。

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「悪質タックル」のシーン(関西学院大学提供)

長年闘ってきた相手の名前を間違っていた

 次に内田監督が無意識に見せていた仕草から、その心理を解析してみたい。

 メディア対応の遅れを侘びた後に内田監督が述べたのは、自分の進退についてだった。

 わずかに顔を左右させながら「一連のこの問題はすべて私の責任でございます」と述べ、視線を落とす。続けて「そして」と間があいた。「関西学院大学の皆さまにもお伝えしましたが」と言って、また間があく。

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 次の言葉を口にするのをどこかためらっているようだが、言葉を発する前の仕草は、本音を知る重要な手掛かりだ。このように間があくのは、次に言おうとすることに不安があるか、それが本音とは違うという時によく見られる。すると内田監督は、集まった記者たちを見回すよう大きく首を振ると、「日本大学の監督を辞任致します」と前を見た。本音は辞任したくないのだ。そのため記者たちを見回すような仕草で自分の辞任を大きくアピール。相手のことより自分のこと、本人の中では謝罪や問題の説明より辞任表明が優先という印象がやはり強くなる。

 頭の下げ方もどこか中途半端だ。「私の責任」と視線を落としたまま繰り返すと、「誠に申し訳ございません」とやや斜めに顔を上げた姿勢から、頭を下げたのだ。謝罪会見ならば、この頭の下げ方はずいぶんとおざなりで雑でしかない。特にここ最近、姿勢を正し、深々と長々と頭を下げる謝罪会見が続いている。そんなシーンを目にしているのだから、内田監督の謝罪から誠意は感じられないだろう。

大学スポーツは、教育の場でもあるはずだが…… ©iStock.com

 まして、相手の大学名を言い間違っているのだから、何をか言わんやである。おそらくこれまでずっと「かんせいがくいん」を「かんさいがくいん」と言ってきたのではないだろうか。長年闘ってきた相手の名前を間違っていたという事は、それだけ監督が敬意を払うことなく相手チームを見ていた、問題が起きても相手を軽視していたという印象につながる。