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「『万引き家族』は犯罪行為を助長する」という人々に伝えたい大事なこと

2018/07/02

 映画やテレビ、書籍などの文化から、反社会的な内容を排除しようという動きが進んでいる。

 カンヌ映画祭でパルムドールの栄冠を手にした是枝裕和監督の映画『万引き家族』は、家族ぐるみの万引きや幼女誘拐などの話が出てくる。これに「万引きと言う犯罪行為を助長してしまわないか」という声が出た。また、中学生の少女と誘拐犯の生活を描いた漫画のドラマ化作品『幸色のワンルーム』にも「実際に起きた誘拐事件を肯定的に描いている」と批判が出て、東京のテレビ朝日は放送を取りやめた。

「相模原事件」被告の手記刊行という話も浮上

 これらの騒ぎに続いて、相模原市の知的障害者施設で46人を殺傷したと起訴されている被告の手記が刊行という話が浮上した。出版を取りやめるよう求めた2000人の署名が版元に提出されている。NHKの報道によると、署名を提出した大学教授はこうコメント。「被告の差別的な思想が本という形で拡散すれば同調する人が増えるおそれがあり危険だ」

 確かに46人殺傷事件の被告手記については、注意が必要だ。被告は「意思の疎通が取れない人は安楽死させるべきだ」などと露骨な差別発言を行っており、そのような発言そのままの手記が刊行されれば、ヘイトスピーチに該当する可能性もあるからだ。しかし出版社は手記だけでなく、専門家の意見や被害者の家族の声も併せて掲載するともしている。まだ完成した書籍が表に出ていない時点では、その可能性は判断できない。

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 加えて、犯罪者の書籍については印税の扱いの問題もある。米ニューヨーク州には「サムの息子法」という法律があり、加害者が書籍の出版や映画などから得た収入は、犯罪被害者への補償のために取り上げることが定められている。日本でもこの議論は必要だろう。

 上記の注意点に留意した上で、『万引き家族』『幸色のワンルーム』、46人殺傷事件手記の三つのケースについて考えてみたい。共通していることは二つある。第一は、それらの作品が公開・放送・刊行されていない段階でいずれも批判が出てしまっていることだ。つまり内容がどのようなものなのかが問われないまま予防的な規制が求められてしまっており、これは表現の自由の観点からきわめて危険である。