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蒲焼の『ポスト・ウナギ候補』を探して地球の裏側まで

深海アナゴ、デンキウナギ、タウナギ、ヌタウナギからナマズまで

2018/07/20
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 2014年に『ニホンウナギ』(以下ウナギ)が絶滅危惧種指定されて早4年。このところは蒲焼の値段が高騰するとともに、彼らを食していくことの是非についても議論が過熱している。

 しかし公に絶滅が危ぶまれ、資源保護の機運が高まる中でコンビニや大手スーパーは毎夏「今のうちに食べとかないと!」とキャンペーンを張ってまで追い打ちをかける。異様である。

 彼らの美味さは文字通り人を狂わせるのだ。まあ、たしかに掛け値なしに美味しいのは事実だけれども――。

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ウナギ料理はほとんど“蒲焼一択”

 ところで日本は魚介料理に関して他に類を見ない多様性を誇る。しかしそんな我が国においてすら、ウナギというのは極端にレシピのレパートリーに乏しい魚種である。少々乱暴な言い方をすれば、ほとんど“蒲焼一択”だ。

 うな重やひつまぶし、うざくなどは、言うまでもなく蒲焼から派生したものである。

 次点で白焼き、細かく探ればごくごく一部の地域で珍重される刺身(有毒の血液を洗浄した上で供される)や各種の創作料理などもあるにはある。だが日本に暮らす人であれば、やはりウナギといえばまず蒲焼を思い浮かべるのではなかろうか。

 ……ということは資源量が安定していて、かつ蒲焼にしてウナギに負けないほど美味い魚を見つけられれば、おおよその問題は解決する。

 蒲焼にして美味い魚は何か。ウナギに代わる魚はいるのか。私がこれまでに実食してきたあまたの『ポスト・ウナギ候補』たちを紹介しながら検討していきたい。

ニホンウナギとマアナゴは蒲焼界の逸材

 まずはウナギに近縁の魚から。

 渦中のニホンウナギは「ウナギ目ウナギ科」に分類される魚で、日本にはウナギ科に属する魚がもう一種生息している。

 それがこの『オオウナギ』である。

筆者が捕獲したオオウナギ。

 オオウナギは南方系のウナギで、南西諸島に多産する。その名の通り大型で、成長すると全長1.5メートル、体重10キログラム以上、胴周りは成人男性の脚ほどにもなる。

「巨大なウナギ!」と聞けば気になるのはやはりその味だが、残念ながら蒲焼にして美味いものではない。身質がウナギとはまったく異なるのだ。まず肉が硬い。ウナギらしいフワッとした舌触りには程遠く、むしろ鶏肉のようにガシガシとした歯ごたえである。さらに、脂のノリが悪い。これが蒲焼にする上で致命的となる。あの甘辛く重いタレにまったく合わないのだ。蒲焼とは脂の乗った肉がタレと調和して初めて美食となり得る、素材を選ぶ料理なのである。

 ウナギとともに蒲焼の材料として双璧をなすマアナゴも脂を多分に含んでいる。彼らはむしろ特殊な例であり、蒲焼はウナギやアナゴの仲間ならばいずれにでも通じる調理法というわけではないのだ。いや、それどころかむしろ蒲焼に向かない淡白な種の方がずっと多い。

ダイナンアナゴはハモのように骨切りをした上で天ぷらに

 たとえば、東京湾に数多く生息する『ダイナンアナゴ』という大型のアナゴ。彼らは大きさこそ前出のオオウナギ並みだが、シルエットや雰囲気はマアナゴにそっくり。けれどやはりマアナゴの深い味わいを期待して蒲焼にすると、脂がまったく足りず「なーんか違う……」。

東京湾にも数多く生息する“江戸前”のダイナンアナゴ。
ダイナンアナゴの蒲焼。見た目は迫力抜群だが……。

 しかし彼らの名誉のために断っておくが、オオウナギもダイナンアナゴも蒲焼に合わないだけで決してマズい魚というわけではない。オオウナギは奄美大島では煮つけで、東南アジアではエスニックカレーの材料として親しまれている。食材としてはウナギよりもむしろ歯ごたえの強い鶏肉をイメージして扱うといいだろう。

 ダイナンアナゴは硬い小骨が多いため、ハモのように骨切りをした上で天ぷらなどにするとなかなかウマい。