これまで筆者が文春オンラインで4回にわたり記事を発信してきた、サントリーグループの自動販売機オペレーション大手・ジャパンビバレッジの東京駅ストライキについて、新しい情報を入手した。
ストライキの実施の際に掲げていた要求について、労働組合が会社から「成果」をあげたというものだ。
このストライキは、個人加盟の労働組合・ブラック企業ユニオンに加盟するジャパンビバレッジの労働者10数名が敢行したものだ。ストライキの目的は、大きくは2つ。未払い残業代の支払いと、その未払いを労働基準監督署に申告した労働者に対する懲戒処分の撤回だった(経緯は、「労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日」を参照)。
ストライキの反響と組合の闘いの結果、解雇を示唆していた会社が、7月上旬にこれを「撤回」したのだという。
本記事では、ジャパンビバレッジとユニオンの闘いを振り返りながら、労働条件を改善しようと声をあげた労働者に企業が行う「報復」の実態、それに対する労基署の対応の難しさ、そして労働組合の役割について考えてみたい。
Aさんだけを狙い撃ちを
ジャパンビバレッジは今年3月、労基署に未払い残業代を申告していたAさんに対して無期限の自宅待機命令を行い、懲戒処分を行うことを明言していた。
懲戒の理由として会社が主張していたのは、賞味期限切れなどで余った商品を、Aさんが自家用車に置いていたことだったという。これが「会社の物品の外部への無断の持ち出し」「横領」「窃取」に当たるというのだ。とはいえ、Aさんに限らず、同社の従業員にとって、このような行為は日常的だった。余った商品を上司に報告すると「自腹で買い取れ」などと言われるためだ。
そうした実情にもかかわらず、ジャパンビバレッジは、同社の労基法違反を労基署に申告し、全社的に残業代を支払わせることにした張本人であるAさんだけを狙い撃ちし、「全支店の全従業員に調査を実施したが、Aさん以外に1人も商品の持ち帰りはなかった」と言い張ってきたという。
実際にジャパンビバレッジは、Aさんの行為について「重懲戒事由」に当たるとして、「懲戒解雇」か「諭旨退職」に処するという書面を作成していた。しかも、同社の代理人には、経営法曹の重鎮である安西愈弁護士が所属する安西法律事務所の弁護士が立てられた。サントリーグループの大企業ならではの盤石な体制で、Aさん潰し、組合潰しを仕掛けてきたのである。
自販機ストが追い風に
だが、会社側の主張は嘘で塗り固められた、脆弱なものだった。ユニオンの調査では、複数の支店から「先輩からこうした方法(持ち帰り)を教わった」「上司もこのことを把握していた」などの証言を得られた。別の支店では、会社調査において、非組合員の社員による「自分も周りも持ち帰りをしていました」という証言を改竄したり、支店長が商品持ち帰りを見つけて数名の労働者を呼び出していたが、その事実を隠蔽していた。
そこに追い風になったのが、今年5月のJR東京駅の自動販売機ストライキである。それまでほとんど知られていなかった同社の労働運動潰しに対して、組合員たちが勇気を出して立ち上がったことで、非常に広範な社会的共感を得ることができたのだ(筆者の記事「東京駅の自販機ストライキは、なぜ『共感』を得たのか」を参照)。