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安倍「薩長イズム」vs.石破「正直、公正」 珍発言で追う総裁選のゆくえ

なぜ安倍首相は「公開討論」を避けるのか

2018/09/01
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安倍晋三 首相
「しっかり薩摩藩、長州藩で力を合わせて新たな時代を切り開いていきたい」

時事ドットコムニュース 8月26日

 安倍晋三首相は8月26日、訪問先の鹿児島県垂水市で9月の党総裁選への立候補を正式に表明した。既に出馬を表明している石破茂元幹事長と一騎打ちとなる。地方での出馬表明は異例のこと。安倍首相の地元・山口との「薩長同盟」が明治維新の契機となったことにちなんだとみられている。

安倍晋三首相 ©JMPA

 上記の発言は出馬表明直前に鹿児島県鹿屋市で開かれた自民党・森山裕国対委員長の後援会合で講演したときのもの。同日に放送されたNHKの大河ドラマ『西郷どん』を意識した上での発言である。

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 立憲民主党の枝野幸男代表は27日、安倍首相の発言に対して「わが党には鹿児島選出もいる一方で、(薩長と対抗した)福島の人間も、奥羽越列藩同盟の地域だった人間もいる。わが国を分断するような、国全体のリーダーとしては間違った言い方だ」と批判した(時事ドットコムニュース 8月27日)。

「薩長同盟発言」の意外な起源

 安倍首相の発言を「単なるリップサービス」と捉える向きもあるが、安倍首相の明治維新に対する思い入れは深い。2018年の年頭所感を「本年は、明治維新から、150年の節目の年です」という言葉から始めたほどだ。今回の出馬表明でも「日本の国づくり」という言葉を使っているが、年頭所感では「150年前、明治日本の新たな国創り」と述べていた。今の日本と明治維新を重ねているのは明らかだ。

尾辻秀久元参院副議長 ©共同通信社

 安倍首相の対抗馬潰しはすさまじい。今回の鹿児島訪問は、「反安倍」に傾きそうだった石原派(近未来政治研究会、12人)を首相支持でまとめた森山氏に対する返礼の意を込めて行ったものという見方がある(産経ニュース 8月26日)。「反安倍」を標榜する鹿児島県連の重鎮・尾辻秀久元参院副議長を支持する党員票を切り崩す狙いもあると言われている(『週刊文春』9月6日号)。

 安倍首相の側近は、総裁選への対応が注目される小泉進次郎氏への処遇についてもこう語っている。「今回安倍首相に投票しなければ、大臣、副大臣、政務官などに就かせないのはもちろん、党の役職や国会の委員長ポストからも一切外す。戦なんだから敵につけば干されるのは当然だ」(『週刊文春』9月6日号)

溢れでる「薩長イズム」

 コラムニストの小田嶋隆氏は「薩長イズム」について「1.すべての人間を敵と味方に分類する心的傾向 2.数をたのんで少数者を威圧する行動原理 3.身内びいきと利益誘導で仲間を誘引する人事管理手法」と皮肉っている(ツイッター 8月27日)。

 明治維新において長州藩・薩摩藩を中心とする新政府軍は、旧幕府軍側の会津藩などに「賊軍」の汚名を着せて徹底的な弾圧を行った。安倍首相の「薩長イズム」はこれから全開になる予感がする。