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猫と本が好きな「普通の会社員」が実現した幸せな働き方

幅允孝が『夢の猫本屋ができるまで』(井上理津子 著)を読む

2018/09/24
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『夢の猫本屋ができるまで Cat's Meow Books』(井上理津子 著/安村正也 協力)

 東京・三軒茶屋に「キャッツミャウブックス」という猫本の専門本屋ができて、ずいぶん話題になっているというニュースを読んだことがありました。けれど、僕は行ったことがなく、店主の安村正也さんに会ったこともありません。なぜなら僕は(けっこうな)猫アレルギー持ちだから。でも、本のいいところは紙面で猫の描写に触れてもくしゃみが出ないことです。僕はやっと本書で「猫本屋」の根っこについて知ることができました。

 この本は斜陽を迎えたと言われ続けて20年位(?)経つ出版界で、小さな本屋と猫の保護活動を融合させたお店をつくった安村さんの冒険譚です。「猫が本屋を助け、本屋が猫を助ける」というコンセプト通り、収益の一部を保護猫活動へ寄付しながら猫たちが「店員」としてお客様を迎えるのがこの「キャッツミャウブックス」。

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 出版業界へのコネも経験もない「普通の会社員」が数多のハードルを越え、多くの賛同を得ながら自身のお店を持つ「夢の実現本」として本屋好きには響くことでしょう。コンセプト決定から物件探し、資金調達、店舗設計、仕入れ、開店に至るまで具体的な数字(お金)を開示しながら進む「具体的準備編」は、小さなお店を持ちたい誰かの指針になると思います。しかも「猫がつないだご縁」パワーの強力なことよ。猫好きコミュニティーの強固な団結は、現代の友愛結社といえましょう。