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「ホークスは俺らが倒すんだから絶対負けんな」という応援感情について

文春野球コラム ペナントレース2018

 SMBC日本シリーズ2018は本稿執筆の時点でソフトバンク3勝 広島1勝(1分)である。ヤフオクドームで完全に流れが変わった。特に直近の第5戦、柳田悠岐のバットを折りながらのサヨナラホームランは圧巻だった。ギータはいつも気持ちよさそうだ。ホークスはこれで日本シリーズ本拠地12連勝。そしてパ・リーグ勢は日本シリーズ本拠地15連勝だ。

日本シリーズ第5戦、サヨナラ本塁打を放った柳田悠岐

ホークス、カープのどっちを応援するか

 日本シリーズが始まってから、人に会ったとき「えのきどさんはホークス、カープのどっちを応援するんですか?」と尋ねられた。あるいは「やっぱり中立で、野球自体を楽しむんですか?」とか。訊いてくる人はもちろん僕が熱心なファイターズファンだと知っている。興味深いらしいのだ。日頃、敵としてぶつかっているパのライバルチームをどう扱うのか。「パの仲間」として応援するか。それとも仇敵を倒してくれるならセ・リーグチームであっても歓迎なのか。

 昭和の昔、巨人がV9を続けていた頃、「アンチジャイアンツ」の野球ファンは後者だった気がする。とにかく巨人をやっつけてくれればどこでもいい。テレビ中継は常に巨人戦だったから、彼らはシーズン中から「巨人じゃないほう」を応援する習慣だった。巨人がコテンパンにやられるのが見たい。巨人をぶっ倒して世の中の空気を変えたい。

 といってあの時代の「アンチジャイアンツ」の野球ファンがどのくらいパ・リーグに関心を払っていたかといえば怪しいものだと思う。大して知りもしなかったろう。まぁ、それは仕方ないのだ。パ・リーグ党もテレビの巨人戦中継を見て、途中差し込まれる「他球場の経過」でひいきチームが勝ってるか負けてるか確認するしかなかった。ネットで速報が確認できる今とは違うのだ。パ・リーグの選手は(歴史的にはフジテレビ『プロ野球ニュース』が全試合ダイジェストを流すまで)いわば空想上の存在だった。麒麟同然だ。鳳凰だ。僕は割と長い間、『週刊ベースボール』の写真を何度も何度も眺めることで、頭のなかで選手を動かしていた。

やせ蛙 負けるな一茶 これにあり

 で、「ホークス、カープ、中立のどの立場か?」だが、これがね、昔と今とでは日本シリーズに対する距離感が違ってしまった。昔はファイターズファンにとって、日本シリーズはほとんどなーんも関係ないものだった。中立か、もしくはシリーズを楽しみながらどっちをひいきするか決める感じの、遠くの出来事だった。

 それが北海道に移転して、2006年、SHINJO劇場の日本一を経験して以降、感覚がガラッと変わった。それまでは1981年の後楽園シリーズ(巨人と日ハムが同一球場で日本シリーズを戦った)の記憶だけがリアリティーなのだった。「自分たちが優勝することだってある」、もしくはもっと踏み込んで「優勝を逃して悔しい」という足場から日本シリーズに出場した「パの仲間」を見ると、感情が混じるのだ。これは自分でも面白かった。

 ※ファイターズは90年代に二度逃げつぶれ、西武に優勝をさらわれたことがある。が、日本シリーズはやっぱり他人事だった。「本当なら自分たちが出場していたはずなのに」とはなかなか思えなかった。

 まぁ、僕は基本的にはパ・リーグを応援したい立場だ。僕は「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり」の小林一茶だ。長年、人気面でセの後塵を拝してきたパ・リーグ蛙の側に立ちたい。若いファンはもう感覚が違うかもしれないが、僕の世代がそれを忘れちゃいけないんじゃないかと思っている。

 だけど毎回、自分の胸に手を当てて感情を確認している。お前は本当に仇敵を応援するのか。負けて悔しくないのか。はらわたが煮えくり返らないのか。例えば今年なら「お前は本当は、カープにホークスを粉砕して欲しいのじゃないか?」。感情は揺れるのだ。高校野球で負けた学校が「オレたちの代わりに甲子園へ持って行ってくれ」と千羽鶴を托すような感じにはならない。