経済学者の野口悠紀雄氏(一橋大学名誉教授)は、整理法のカリスマだ。学者としても高く評価されているし、そもそも地頭がいい。未知の問題に遭遇したときに、対象の内在的論理を正確につかんだ上で、適切な対処ができる。これは野口氏が若き日に大蔵官僚として鍛えられた経験が生かされているからと思う。官僚の仕事には制限時間がある。その意味では、試験に近い。与えられた時間を超えて百点満点の答案を書いても、不合格になるので意味がない。とにかく制限時間内に合格点を取るような勉強法、仕事術が官僚をしているうちに自ずから身につく。別の言い方をするならば、常に時間という制約条件を考えて仕事をするということだ。この貴重な時間を極力無駄にしないようにするというのが野口式「超」整理法の要諦だ。
〈あなたの机の上には、整理されていない書類の山が積み上がっていないか? 別の山が、ほかの場所にもできていないか? そのため、必要な文書や資料を探すのに貴重な時間を費やしていないか? それでも目的物が見つからず、窮地に陥ったことはないか? その半面で、キャビネットの中には、とっくに不要になった書類が後生大事にとってあるのではないか?
もちろん、あなたは、このままでよいとは思っていない。これは仮の姿だ。いつかきちんと整理しよう。いまは忙しいからできないだけだ……。
実際、何年も前に、あなたは書類システムの大改革をやったことがある(かもしれない)。そのときには、すべての資料や書類がきちんと分類され、整然とした体系ができ上がった。
しかし、問題は、美しい秩序が徐々に崩壊してしまったことだ。なぜこうなってしまうのか? あなたが、怠惰で無能だからか?
そうではない。原因は、あなたが行なおうとしたこと、それ自体にある。
資料や書類を「分類しようとすること」がまちがいなのだ!〉
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source : 文藝春秋 2014年12月号