安倍元首相の一周忌を控えた7月6日、一人の安倍派幹部が森氏を訪ねた。
「わずかですが……」と差し出したのは薄茶色の紙袋。中に入っていたのは……
下村博文(69)が東京・赤坂にある公益財団法人「笹川スポーツ財団」の特別顧問室を訪ねたのは、3度目だった。笹川陽平が会長を務める「日本財団」ビルの3階にあるその事務所には、元首相の森喜朗が常駐している。日本財団が森のために用意したプライベートオフィスだ。6月8日に入梅してほぼひと月経っているが、まだ梅雨は明けていない。7月6日は午後から晴れ、最高気温も33度まで上がった。午後2時半のことだ。酷暑の到来を思わせる蒸し暑さの中、下村はどうしても森に会う必要があった。秘書に案内され、特別顧問室のドアを開けると、右側の奥にある大きな執務机に森が座っていた。
下村は、パーテーションで仕切られた左側の応接スペースのソファーで待機した。ほどなくして森が杖をついて現れ、そばにあるダイニングチェアーのような椅子に腰かけた。
「ご無沙汰をしていました」
下村が丁寧に頭を下げると、威圧感のある低い声で森が凄みを利かせた。
「君、ご無沙汰って、いつからだと思ってるんだ。無沙汰をしていたということを、君は認めるんだな」
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source : 文藝春秋 2023年11月号