昭和から平成への代替わりを担い、消費税導入を実現した竹下登元首相。存命なら今年の2月26日に満100歳の誕生日を迎えていたはずだった。その竹下氏と共同通信の政治部記者として初めて出会ったのは竹下氏が中曽根康弘内閣の蔵相時代。当時の竹下氏の目の前には田中角栄元首相が立ちはだかっていた。田中氏はロッキード事件で実刑有罪判決を受けたいわば「手負いの獅子」。自民党最大派閥の田中派が権力維持の拠り所だった。その田中派の継承を窺う竹下氏に注いだ田中氏の警戒の目は尋常ではなかった。
だが、そんな状況にあっても竹下氏は明るかった。島根県会議員当時から「陽気な策士」と呼ばれただけのことはあった。苦境の中でも次の一手に思いを巡らし、むしろ楽しんでいる風すらあった。
今もかすかな興奮を覚えるエピソードがある。1987年10月、当時の中曽根首相の総裁としての任期満了に伴う自民党総裁選だ。立候補したのはいわゆる「安竹宮」の三氏。幹事長の竹下氏をはじめ安倍晋太郎総務会長、宮澤喜一蔵相である。ここで中曽根氏が異例の注文を付けた。
「とにかく3人でよく話しなさい」
しかし、行司役不在の話し合いで結論が出るはずはなかった。計5回、とうとう話題もなくなった。根負けしたように三氏は中曽根氏に裁定を委ねることになった。老獪な中曽根氏の策略だった。焦点は「中曽根氏の意中の人は誰か」の一点に絞られた。総裁選終盤の15日夜、竹下氏が中曽根氏に呼ばれた。「ついにその時が来たな」――。竹下氏の帰宅時間を見計らって電話を入れた。
「どうしてもお会いしたい」
断られると思いきや竹下氏は奇想天外な助言を口にした。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から
-
1カ月プラン
新規登録は50%オフ
初月は1,200円
600円 / 月(税込)
※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。
-
オススメ
1年プラン
新規登録は50%オフ
900円 / 月
450円 / 月(税込)
初回特別価格5,400円 / 年(税込)
※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2024年6月号