(しゅうらいゆう ジャーナリスト。1963年、中国浙江省生まれ。87年、私費留学生として来日し、95年、東京学芸大学大学院卒業。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、『ニューズウィーク』日本版で中国事情について執筆中。情報番組などにも出演。YouTube「地球ジャーナル ゆあチャン」配信中。)

 

 わたしが生まれ育った中国の紹興市は、その名の通り紹興酒で有名な町です。各家ではそれぞれ自家製の紹興酒を作っていて、我が家でも母がいつも仕込みをしていました。

 軍医だった父は転勤が多く、帰って来るのはお正月くらい。そのとき、母が用意した料理を食べながら、父が紹興酒を機嫌よく飲んでいた姿を覚えています。わたしも「美味しいものは小さいうちから味を覚えておけ」と、子供の頃に飲まされたものでした。だから、カッコつけてよくこう言っているんですよ。日本で軍医といえば森鷗外がいる。森鷗外は軍医で文豪だった。うちのオヤジは軍医で酒豪だった、って。

 周来友さんは1963年、上海の南の浙江省紹興市で生まれた。現在は通訳・翻訳の派遣会社を経営する彼が、私費留学生として日本に来たのは87年。一時期はバラエティ番組『ここがヘンだよ日本人』『なかよしテレビ』などでも人気を博した。

 紹興は今でこそ高速道路などが通り、風景は様変わりしています。でも、当時は長閑(のどか)な水郷地帯で、子供の頃はそこら中に流れている小川が遊び場でした。川に飛び込んで海老や魚を獲って一日中遊んでいました。

 中国はまだまだ貧しかったけれど、紹興は水が良いので野菜もお米も美味しいんです。夜、家の外で涼を取りながら、並べたテーブルで母の料理をみんなで食べる時間が好きでした。

 今でも印象深いのは、わたしに「日本」という国を教えてくれた朱おじさんです。明の皇帝・朱元璋(しゅげんしょう)の末裔だという80歳を超えたおじいさんで、昔話をよくしてくれました。抗日戦争の際に日本兵が家に来ると、よく「みしみし」と言っていたと朱おじさんは言っていました。それが「飯」という言葉だと知ったのは、日本語を学ぶようになってからのことです。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

有料会員になると…

世の中を揺るがすスクープが雑誌発売日の1日前に読める!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る
  • 0

  • 0

  • 0

source : 週刊文春 2023年10月26日号