幕が切って落とされたように、冬がやってきた。ついこのあいだまで夏ものを着ていたのに、最近はコートを羽織る。日本から秋が無くなるというのは本当かもしれない。

 あのぴんと張りつめたような空気、高く澄んだ空、そして豊かな秋の味覚といったものが味わえないというのはとても残念なことだ。いや、残念というより怖ろしいことかもしれない。

 今朝は久しぶりに厚手のスーツを取り出してみた。引き出しを開けインナーを選ぶ。薄い黒のニットがあった。それを着て胸のところに小さなゴミがついているのを見つけた。はらおうとして気づいた。虫が喰っている。

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source : 週刊文春 2023年11月30日号