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賛否両論の「高輪ゲートウェイ駅」 ウィキペディアで起きた知られざる攻防

ウィキペディアの鉄道記事はなぜ増えやすい?

2018/12/13

 2018年12月4日、山手線の新駅が「高輪ゲートウェイ」という名称になるという報道がなされた。

 NHKがこれをウェブ記事で報道したのが日本時間で14時7分のことだ。その1分後、14時8分には、ウィキペディアに既に存在した「品川新駅」の記事が「高輪ゲートウェイ駅」に改名された。さらに、この新駅名が極めて不評でウェブで炎上が起こったために「高輪ゲートウェイ駅」の項目が荒らされ、14時31分の保護依頼提出を受けて14時42分に3ヶ月の半保護となった。

 改名されてから半保護となるまでの34分間で59回編集され、記事中で駅名が「高輪ハードゲイ駅」や「高輪ゲートボール駅」にされたり、「ケツデカ本線」が通っていることにされたり、大変な惨状だった。

ウィキペディア」より

 ウィキペディアを普段から編集している人をウィキペディアンと呼ぶが、ウィキペディアンでない人にとって、この話は何がなんだかサッパリわからないし、むしろ気味が悪いのではないかと思う。NHK報道の1分後には改名されているという速度もさることながら、そもそも名前すらついていない駅の記事がなぜ既にウィキペディアにあるのか。そしてウィキペディア記事の名前を変えるとか保護するとかいうのは、いったいどういう手続きなのか。

 ウィキペディアにおける編集の手続きは複雑だ。この記事では、「高輪ゲートウェイ駅」の項目をめぐって起こった攻防について、ウィキペディアン視点で解説をしてみようと思う。

そもそもなぜ「品川新駅」なんていう記事が?

 ウィキペディアでは、将来の予定について早くから記事を作ることは奨励されていない。「ウィキペディアは未来を予測する場ではありません」という決まりがあり、あやふやな予測記事はダメということになっている。ただし未来のことでも、2024年パリオリンピックのように、かなり確定的に起こると考えられ、既に準備が進められていて、多数の報道があってきちんと出典を示しながら記事が書けるものであれば、立項(ウィキペディア内で項目を立てること)が認められることもある。

 「品川新駅」という記事自体は、日本時間で2017年6月18日の午前7時35分に作成された。ただし、この時点では「品川新駅」は「転送」であって普通の記事ではなかった。つまり、この時点では、「品川新駅」をクリックすると「田町車両センター」という別の記事の「今後の予定」節に転送される設定だった。これは、ある事柄に複数の名前がついていたり、一つの大きな記事内でいろいろなものが説明されていたりするような場合、検索を便利にするために行う処理だ。「田町車両センター」の記事には山手線の将来についての記載があった。

建設中の「品川新駅」あらため「高輪ゲートウェイ駅」 ©時事通信社

 その後、何度か転送先の変更があり、2017年8月19日の数回の編集で「品川新駅」が転送ではなく、独立した記事になった。

 一般的にウィキペディアでは、転送ではなく、独立項目とするためにクリアしなければならないハードルはけっこう高い。独立項目として成り立たないと見なされた記事については、削除されることがある。独立項目化された「品川新駅」は当初大変貧弱な内容だったので削除依頼にかけられたが、出典のある加筆がなされて比較的まともになったため、オリンピックなどと同様、確実に準備が進んでいる未来の事柄についての記事として保持されることになった。