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女性初のOECD事務次長が、農場暮らしに転じて書いた家族の歴史

著者は語る 『わたしの家族の明治日本』(ジョアンナ・シェルトン 著)

『わたしの家族の明治日本』(ジョアンナ・シェルトン 著)

「かつてわたしは米国政府で経済や貿易に関する仕事をしていたのですが、1980年に日本へ初出張するときに、叔母から曽祖父の手紙のコピーを渡されました。曽祖父のトム・アレクサンダーは明治の日本でキリスト教(長老教会)の宣教師をしていたのです。手稿を読んで、いつか彼のことを書きたいと思い、その後も日本に立ち寄った折には資料を集めたり、所縁(ゆかり)の人や教会を訪ねていました」

 ジョアンナ・シェルトンさんは、アメリカ財務省で働き、最年少で女性初のOECD(経済協力開発機構)事務次長を務めた。しかし1999年、50歳を目前にモンタナ州での農場暮らしに転じる。

「20年間ロンドンやパリなど行政の中央で働いてきて、最後はOECDのナンバー2になると、正直、公務員として上り詰めた感がありました。それで第2の人生を模索していたとき、義兄から近所の農場が売りにでているという連絡をもらって。いまは農場経営をしながら、近くの大学で教えたり、コラムを書いたりしています。おかげで好きな乗馬をたっぷり楽しんだり、本書を書く時間もできました(笑)」

 トーマス(トム)・アレクサンダーは新妻エマとともに布教のため1877(明治10)年11月、横浜に降り立った。西南戦争直後、日本国内での外国人の移動には許可状が必要だった。

 トムはその後、死の直前まで25年にわたって各地で布教し、京都や大阪、高知の教会を設立した。また明治学院や同志社、女子学院で教鞭を執った。本書は彼の足跡を辿りながら、築地の居留地や地方の人々など、明治の日本を豊富な資料で細やかに描きだす。

Joanna Reed Shelton/1951年、アメリカ・テキサス州生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院修了。米国財務省、国務省貿易政策副次官補を経て、OECD事務次長、副専務理事を歴任。99年にモンタナに移住し、現在モンタナ州立大学客員教授。

「現在一族のなかで、日本と関わる仕事をしているのはわたしだけですが、幸運にも曽祖父にまつわる遺品を、バラバラに一族でかなり保存していました。それとトムが教会本部に送っていた報告書や手紙は、フィラデルフィアの長老教会のアーカイブに残されていました。家族の写真に一緒に写る日本人が誰か、高知の教会の資料で判明したりと、本書の執筆作業はパズルを解くようでした。トムは、自分はごく普通の人で大したことをしていないと思っていました。しかし日々の仕事の積み重ねで、相当すごいことを達成したと思います。彼が日本で建てた教会は、140年後のいまも全部元気に活動を続けているのですから。継続の大切さは、現代社会にも通じるのではないでしょうか」

『わたしの家族の明治日本』
明治維新直後、日本に宣教師としてアメリカからやってきた27歳のトーマス(トム)・アレクサンダー。日本各地に学校や教会を建て、奔走し続けた彼は、変わりゆく日本で何を考え、どう生きたのか。最年少で女性初のOECD事務次長に就任した曽孫が綴る感動の実話。(滝沢謙三、滝沢カレン・アン訳)

わたしの家族の明治日本

ジョアンナ シェルトン(著),滝沢 謙三(翻訳)

文藝春秋
2018年10月11日 発売

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