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なぜわたしたちは『ボヘミアン・ラプソディ』の「エーオ」に胸がアツくなるのか?

「エーオ」と「電話」で読み解く「呼びかけと応答」の物語

2018/12/21

「エーーーオ」「エーーーオ」
「エェーオー」「エェーオー」
「エレレロレレレロ」「エエエオエエエオ」
「エェオ!」「エェオ!」「エーオ」「エーオ」「エーーオ」「エーーオ」
「エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオ!」
「エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオ!」
「エオ!」「エオ!」「エオ!」「エオ!」
「リーロリロリロリロリロリロレロ」
「リーロリロリロリロリロリロ……」
「レロ」「レロ」「レロ」「レロ」
「オールライッ!」「オールライッ!」

 映画のラストに置かれたライヴ・エイドのシーンでは、フレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)が観客に「エーオ」と呼びかけ、観客がそれに応答するコール&レスポンスのパフォーマンスが披露されます。フレディが観客と一体になる姿を見て胸が熱くなった人も多いでしょう。

冒頭でフレディの「エーオ」を聞くことができる


 『ボヘミアン・ラプソディ』の表向きの物語は「フレディ・マーキュリーの挫折と栄光」といった形で要約できるものです。この物語を中心に置きつつ、家族やバンド・メンバーとの不和と和解、自身のセクシュアリティをめぐる苦悩や葛藤、恋人との出会いと別れ、ファンとの交流といったサブ・ストーリーが展開されていきます。

 これだけ見ると、単にヒットする伝記映画の定石を踏まえているだけだと思われるかもしれません。ですが、『ボヘミアン・ラプソディ』には、こうした物語を束ねるさらに上位の物語が設定されています。それが「呼びかけと応答」の物語です。

 これは映画の真のテーマをあらわしているばかりか、本作がこれほど多くの観客を惹きつけるに至った原動力ともなっています。この記事では、フレディの「エーオ」と、「電話」という装置に注目して、『ボヘミアン・ラプソディ』を根底から支えている「呼びかけと応答」の物語を読み解いていきます。

「フレディ」と「クイーン」は電話に「呼びかけ」られて誕生した

 そもそも、本作において「フレディ・マーキュリー」が誕生したまさにその瞬間を思い起こしてください。家族やバンドのメンバー、恋人のメアリーに囲まれ、自身の誕生日を祝う場で、「ファルーク」(フレディの本名)は、はじめて「フレディ・マーキュリー」という名前を口にします。ファースト・ネームだけでなく、「バルサラ」というファミリー・ネームまで変えてしまったフレディに対して、両親(特に父親)は動揺を隠せません。

 その直後にフレディ宛の「電話」がかかってきます。電話を取り次いだ妹から「フレディ・マーキュリー」と「呼びかけ」られ、彼はそれに「応答」します。この瞬間、かつて「ファルーク・バルサラ」だった少年は、「フレディ・マーキュリー」として生まれ変わるのです。そして、この電話の「呼びかけ」に「応答」したクイーンは、大手レコード会社と契約を結び、スターダムにのし上がる第一歩を踏み出すことになります(「電話」という「呼びかけと応答」に特化した装置がいかに巧みに利用されているかはのちほどじっくり見ていきます)。

クイーン © Getty Images

 こうした「呼びかけと応答」がこの映画全体のストーリーを駆動していきます。その最たるものが、冒頭で触れた「エーオ」です。「エーオ」「レロ」といった発声を観客に復唱させるこのコール&レスポンスのパフォーマンスは、じっさいのライヴ・エイドで行われているものです。ですが、映画は単にライヴ・エイドを再現するためだけにこのパフォーマンスを取り入れているわけではありません。「ウィ・ウィル・ロック・ユー」と「愛という名の欲望」の2曲を削ってまでも「エーオ」を残したのは、このパフォーマンスが映画の核心をなす「呼びかけと応答」の物語に深く関わっているからにほかなりません。