昨年末、こんな投稿がネット上で共感を呼んだ。

〈年末が近づき、僕のフェイスブックでも多くの国会議員の知人たちが、忘年会を回ったり、消防団の年末集会に足を運んでいるさまをアップしています。笑顔で写真に映る彼らを見ながら、僕は複雑な思いに駆られます。なぜなら、これは「政治家がバカになっていく」仕組みの一部だからです。〉(駒崎のフェイスブックより)

 12月29日23時過ぎ、これに続く1500字ほどの文章がフェイスブックに流れると、瞬く間に2000人以上が「いいね!」を押した。タイトルには、〈「政治家がバカになる」仕組みを、そろそろやめよう〉とあった。

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駒崎さんのフェイスブックより

 筆者は、病児保育などを手掛けるNPO代表の駒崎弘樹さん(37)。ビジネス界にユニークな人材を多数輩出する慶応SFC出身の社会起業家である。民主党政権時代から政府のご意見番に抜擢されてきた彼は、若きオピニオンリーダーとして永田町でも知られた存在だ。

 駒崎さんは、丁寧に政治家がバカにならない方法まで言及している。

〈解決策は、我々有権者が握っています。すなわち、我々が国会議員に対し「この新年会には、もう来なくて良い。本を読んだり、社会問題の現場に足を運んでほしい。それがあなたの本当の仕事だ」と言ってあげるのです。〉(同・駒崎のフェイスブックより)

 たしかに、大晦日の紅白歌合戦が終わった直後あたりから「○○神社で年越し街頭演説しました!」「これから××カ所の神社を回ります!」「元旦から新年会が△件あります」などと、SNSでアピールする政治家たちの投稿がタイムラインに溢れた。駒崎さんが「悪しき慣習」と唱える地元活動は、2017年も止まらない。

「ここに来る前に別のチームと3試合やってきました」

「政治家の仕事の場合、論理的に割り切れるものばかりではないと思いますよ。最後は『人』ですから。『忙しいから』と言って自分のところに来てくれなかった人と、来てくれた人だったら、来てくれたほうを応援したくなっちゃうものなんですよ」

 そう答えてくれたのは、自民党農林部会長の小泉進次郎(35)だ。1月3日午後1時、神奈川県横須賀市内にあるグラウンドにライトブルーのウインドブレーカーを着込んだ彼の姿があった。09年に初当選してから正月の仕事始めは、選挙区内にある少年サッカーチームの「初蹴り」と決めている。その日は市内2か所であったそれに参加した。

©常井健一

「あけましておめでとう!」

 小泉は寒風吹きすさぶ中、駆け寄る小学生たちとハイタッチを繰り返した。

「今日はウォーミングアップが終わっています。午前中、ここに来る前に別のチームと3試合やってきました」

 そう言って挨拶を終えると、小学生たちとボールを追いかけ始めた。

 駒崎さんの提言を支持する人々の中には、小泉進次郎の清新なイメージに「理想形」を重ね合わせる方も少なくないだろう。小泉は、駒崎さんとも親交が深く、彼のアイデアを政策作りに活かしてきた。多くのマスメディアもこうした「表の顔」をとらえて、ベテラン政治家たちと比較し、“新世代の星”として好意的に報じてきた。

©常井健一

 しかし、テレビカメラがいない場面で見せる小泉は、「政治家がバカになる仕組みを、そろそろやめよう」という提言を喝采する世論とは少しベクトルが異なる。一言で表現すれば、「昔の政治家」なのだ。

 実際、小泉にこう言われたことがある。

「大人が子どもに向かって『いいか、ああいう先生みたいになるんだぞ』と、模範にしてもらえるような『末は博士か大臣か』と呼ばれた時代の政治家を目指したいんです」

「体力の限界」とぼやいたところを直撃取材

 小泉は前回衆院選(14年)では得票数、得票率ともに全国トップを記録している。30代にして、地元の支持は、総理時代の父・純一郎よりも凌いでいる。その強さの秘訣を父に言わせれば、昔ながらの地元回りにあるという。

「市内どこ行っても『こないだ進次郎が来たよ』と言われる。あんなに熱心に選挙区を回っていたら、誰が対抗馬になってもかなわねえよ」(父)

 小泉は父から受け継いだ支援者以外にも、若者や女性が中心の後援会を新たに築き上げた。法被を着てお祭りに参加したり、ジャージ姿でマラソンを走ったり、地域の宴会をはしごしたりする姿は守旧派と呼ばれる自民党のベテラン政治家たちがしてきたことと、さほど変わらない。

©常井健一

「駒崎さんの言いたいこともわかる」

 小泉はそう言う。それなのに、なぜ「バカになる仕組み」を堂々と続けるのだろうか。

 子どもたちとの2試合目を終え、「体力の限界」とぼやいたところで、さらに直撃してみた。すると、心中の何かが溢れ出したように思いの丈を述べ始めた。

「政策も大事だけど、『この人と握手したな』、『この人とサッカーしたな』ということはね、理屈を超える時がある。そういったことを無視をして、政策だけをやっておけばいいということでしたら、政治家は政治学者がやったほうが良いと思いますね。政治学者のほうがよっぽど知識とか、論文とか、図書の中のこととか詳しいですもん。

©常井健一

 だけど、僕ら政治家は『人』と向き合うんです。その中で、学問の知識とかも凌駕するような現実というのに時として出会う。それを無視したら、政治はできないんです。だから、理屈だけではない。

 だけど、駒崎さんの言っていることはよくわかる。もしも、僕が全くそういう時間を捨てて、すべて政策のためにという時間に生活が変わったら、一変しますよ。だけど同時に、そうなったらそうなったで、失うものもあると思ったほうがいい。このように、小学生から『シンジロウ、シンジロウ!』『サッカーするおじさん!』と呼ばれるような関係性は、自分の中ではすごく大切で、政治の世界で苦しい時に自分が誰に支えられているかということを考えた時、地元の皆さんの顔、声が頭に浮かびますよ。

©常井健一

 だけど、駒崎さんが言っていることもすごくよくわかる。ただね、これはね、もしかしたら、小選挙区制という中では難しいと思いますよ。だって、そういうスタイルで地元行事に行かないようになれば、ネットでは称賛される。だけど、現場の人たちは対抗馬がそのまま来続けてくれていたらどう思いますかね。そしたらね、来てくれるほうに情が移る可能性は高いと思いますよ。

©常井健一

 どっちが勝つか、はっきり白黒をつける小選挙区制では制度論から始めないと変わらないと思いますよ。昔の中選挙区制だったら、『おれはもうこの分野で生きる』『このエリアの票だけ押さえる』と考えれば勝利の計算が立ったと思うけど、いまの小選挙区ではその計算ができませんもん。だから、トランプ大統領だって生まれるわけだし、だから、イギリスの国民投票だって誰もがまさかと思う結果が出たわけだし、選挙ってわからないですよ」

進次郎が年末年始に読んだ本

 こうした思いを抱きながら新年行事をはしごする小泉。それでも、年末年始の間に暇を見つけ、衆院議長の大島理森から薦められた大著『サピエンス全史』を読破したという。上下巻(596ページ)の2冊からなり、「なぜ人類だけが繁栄したのか」という謎に迫った世界的ベストセラーだ。

 小泉が最も集中して読んだのは、「農耕がもたらした繁栄と悲劇」という章。そこでは、より良い暮らしを求めた文明の進化というものが、昔よりも過酷な生活を強いる結果を招いたという「改革の逆説」が説かれている。

 なるほど、な。

 私は取材を終え、そう思いながら最寄り駅まで歩く途中、小泉のポスターが目に入った。

©常井健一

〈赤ちゃんが泣いてもいい。子どもが走り回ってもいい。政治を、もっと身近にしていきたいから。演説会に来てみませんか。〉

 そう太字で書かれた下に、こう続く。

〈投票は18歳から。演説会は0歳から〉

 急進的な進化を追求せず、昔ながらの営みを微調整していく。農協とのガチンコで辛酸を嘗めたメディアの申し子が、足元を見直そうとする兆しを垣間見た気がした。
(一部敬称略)