「一社単独インタビューには応じない」という姿勢を頑なに貫く小泉進次郎。その独自ルールを解く瞬間が、国政選挙中に全国を飛び回る応援行脚だ。週刊文春編集部では2012年の衆院選以降、ノンフィクションライターの常井健一氏による密着取材を通して、彼の肉声を読者に届けてきた。今回の参院選で進次郎は選挙期間中、22道県98か所で街頭演説を決行。常井氏もその全18日間を追いかけ、「総理への道」を駆け上がろうとする彼の思いを探った。「小泉純一郎にオフレコなし」と呼ばれた男の息子は、<35歳の現在地>をざっくばらんに語った。(全4回)

(※この記事は、常井氏が街頭演説の移動中、全国各地で断続的に直撃したやりとりを質疑応答形式で一つにまとめたものです。質問文は編集の段階で実際よりも説明を詳しくしましたが、小泉氏の発言部分はできる限りそのままの形で掲載してあります。)

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――参院選の公示日深夜、いや正確には翌日の未明2時に長野県川上村のレタス農場を訪ねた。「午前1時集合」の報道発表があるのは自民党史の中でも初めてでしょう。「ナイター収穫」の現場を視察しましたが、そもそもそういった行程は選挙応援に効果があるのでしょうか。

小泉 選挙期間中ですから、選挙活動ができる時間に私が見たいと思っても、そういったことをやっている時間があったら演説してくれよと、そういうふうに候補者サイドは思いますよね。だけど、選挙活動できない時間だったら、私が睡眠時間を削ればいいだけですから文句を言われる筋合いはないだろう。しかも、そういったときに、その時間しかやっていない農作業があるわけですから。ぴったりはまりましたね。良かったです、現場見られて。

記念撮影でなぜかブロッコリーを持ち出す(長野県伊那市)撮影:常井健一

――レタス農家の他にも、今回は空き時間を使っていろんな現場で視察や意見交換をした。トマト農家(山形県大蔵村)、ミカン農家(愛媛県宇和島市)、松阪牛レストラン(三重県松阪市)、タマネギ農家(北海道札幌市)、酪農家(北海道鶴居村)、米農家(福島県天栄村)、ブロッコリー畑(長野県伊那市)、リンゴ農家(福島県福島市)、製材所(秋田県上小阿仁村)、酒米農家(新潟県佐渡市)、養鯉場(新潟県小千谷市)、ヒノキ林(長野県木曽町)……。これまでパフォーマンスばかり注目されていた政治家・小泉進次郎に現場感が芽生えてきたということでしょうか。

小泉 僕はねえ、それは違うな。僕の中では同じことをずっとやっているんです。とにかく現場を大事にすることは変わっていなくて、切り取る方、報じる方の問題ではないですか。

――それ、私のことですね。この選挙戦の告示後に発売された「週刊文春」では、巻頭のグラビアページで「小泉進次郎のくいしん坊!万才」と銘打って写真と原稿を掲載しました。

小泉 ああやって、食べるところだけ報じていれば、いつも全国に行って、そこのものを食っているんですかという批判もある。こちらは、切り取られ方までは制御できないから。だから、自分の中であるのは、やることは変わっていない。一回生の時から地元の現場をしっかり見て、そして、東日本大震災の後、被災地を回って、地方創生担当政務官として地方創生の現場を回って、農林部会長になったら農林の現場を見て。そこは一貫している。

――なるほど。

小泉 僕の中の関心は、いろんな厳しい課題が噴出してくるのが2020年以降だと思う。逃げられない。逃げられない時こそ、政治の力が問われる。もともと政治の世界は厳しいし、大変なことはいっぱいあるけど、大変な時代に対応するためにこの世界に入っているんだから、その時代に備えて自分がどう成長できるか。それっていうのは日本の隅々まで自分がどれだけ体の中に溶け込ませていけるかということと連動していると思いますよね。

朱鷺の観察に夢中(新潟県佐渡市)撮影:常井健一

――昨年10月に自民党の農林部会長に選ばれた時は驚きました。

小泉 それは僕も思いましたよ。ジョークかと思った。今はやって良かったと思っている。こんなに現場感のある政策分野もないでしょう。日本の中で農業のやり方は一色ではない、すごい多様性があるでしょう。だから大きな財産ですよね。

――今回、選挙中にいろんな現場を覗いて、どんな発見がありましたか。

小泉 やっぱり、人口減少に真剣に向き合わなければならないという思いをさらに強くしましたね。村、農業、林業を農林部会長という自分の立場と合わせて明確な視点で見ましたから。そうすると、人口増加モデルはもう通用しないな、どうやって人口減でもやっていけるかな、と。

 農林部会長になってから今まで以上に、現場がすべてという思いを強く持った。現場を見ないとわからないことが多くて、役所のみなさん、詳しいけど、その言葉に体温がないですよ。一応政策は説明いくらでもしてくれて、業界の構造はこうなっているとかわかるけども、その言葉の奥に景色がないですよ。その景色は自分で現場を巡って持つしかない。それと現場の声は政策でカバーできているところ、できていないところをさらけ出してくれますから、特に農業、林業は現場がすべてだなと思います。現場の大切さというのをさらに学んでいるのが、今の立場だと思うんですよね。

――自分の考えと現場の現実との間に齟齬があるのが分かったという部分もあるのでしょうか。

小泉 自分が見えていなかった部分というのも、よくわかった。大きな方向性の話と関係のないところで営まれている農業の話がある。例えば、ものすごく小規模で、家族だけでやるとか、稼ぐまでに行かないけど、その地方にとっては大事なこととか。そういったところの重要性が、今までよりも現場を歩くことで見えてきた。いくら現場を見ても変わらないことは、もっとできる、自分たちの力を過小評価しないでもらいたい。誇りを持ってやりがいを感じてもらえるような環境をつくること。

ランボルギーニ製の草刈り機に感動(北海道鶴居村)撮影:常井健一

――佐渡島では田んぼに飛んでいる朱鷺も見ました。餌を食べているのを見た瞬間、「ねえ、食べてる、食べてる」と政治家らしくない素の表情になっていました。道中、虫や動物を見つけるとそうなりますよね。

小泉 動物が好きなんだよね、本当に。ああいうの見ているとね、何も考えなくていい。純粋な、童心に返れる。

 前回の参院選応援で、離島めぐりで奥尻島に行ったとき、誰もついて来られなかったけど、奥尻島から漁船で帰る時、イルカを見ましたよ。

――佐渡島での若い米農家に海外から注文が入って、しかも携帯の「LINE」で世界中とやりとりしているという話を一緒に聞いて衝撃を受けました。農村と世界がネットで直につながっているものなんですね。

小泉 それはありますね。佐渡で会った米農家の相田忠明さんは公務員辞めてまで専業農家でやっている。もちろん多数派ではないけどね、ああいう人は。ただ、ああいう発想でやっている人がいるから、大丈夫でしょう。

 高齢化で田んぼを手放す人がいても、それを引き受けられる若い人がいない。耕地は集約されても、自分たちであの規模をやるのは無理となった時にどうするか。農地バンクどころじゃなくて、もうできないから誰に任せるかという話。積極的に外から人材を受け入れないと荒れる。それを受け入れるのにも限界がある。外国人の実習生の問題とか、本当に人口減少になったらどうするのか。それがおそらく5年以内に出てくる。米農家の平均年齢は70歳だから、大量に離農者が出てくる。

奥野JA全中会長との共闘を猛アピール(三重県度会町)撮影:常井健一

――小泉さんが地方創生担当政務官の時に注目した島根県海士町(あまちょう)もそうですが、離島や過疎地の人のほうが今後の先例になるようなイノベーション志向を持ちやすいんですね。

小泉 まさか佐渡島に海外へ直に輸出している人がいるとは思わないでしょう。海を越えたら一緒という発想ですから。イギリスからドーバー海峡越えてフランスに行くのと、佐渡島からニューヨークに行くのと本土に行くのは同じだと。そういう発想がいいよね。だから、まさに、人口が減っても嘆くのはやめようということ。

 離島はどうしても島に高校がないとか、進学で島を離れなければならない。多感な時期にも拘らず離れなければならないというところもね、同じ場所にとどまることを当然としない発想を子どもたちに与えるのかもしれない。いつか帰る場所ではあるけど、「島の宿命」というかね。

――離島の場合は「国境」である場合も多いから、特に「島を守らねば」という危機意識が高い。

小泉 沖縄の南大東島のスローガンは、「サトウキビは島を守り、島は国土を守る」。佐渡も国境離島ですから。離島はまだまだ交通費がかさむんですよね。それをなんとかできないのかなと思う。1万2000円(新潟―佐渡のジェットフォイル往復運賃)っていったら、今の時代はLCCで海外に行けますよ。人口が減るからますます採算を合わせるのに高くなっちゃう。

 一方、僕の地元・横須賀はね、40万人もいるから、危機感が薄い。人口減っても需要があるから、そこそこ豊かなんですよ。農業は東京というマーケットが近いから。人口が1万人行かないところは、発想が違いますよ。今年何人生まれましたかと聞いても、今年はいなかったとか、そのレベルよ。考えられない。そういうところは危機感が違う。

 そんな地域でも「LINE」で海外と今どれだけのものを送ってくれないかというやりとりをしているような農家が出てきている。だから、問われているのは、農協についていけますかということ。農協で海外に販路を作る担当者たちがどこまで対応できていますかというと、すごく心もとないことになっている。

大好物の落花生農家を訪問(千葉県八街市)撮影:常井健一

――今回の移動は車での長時間が多いですが、どこの田舎道を走っていても、必ずJAの大きな施設に出くわしました。その村で一番の建物がJAの関連。存在感は大きいですよね。

小泉 でっかいですよ。僕が思うのは、郵便局と一緒ですよ。似ているの。農協のネットワークは全国に張り巡らされていて、病院や葬儀屋、ガソリンスタンドまでやっている。これは農業組織というよりも、地域組織のようになっていて、町内会の発展形みたいになっている。だから大きな組織になっている。強いですよ。

――その大組織に一人で立ち向かうってすごく勇気がいることではありませんか。

小泉 僕にとっての幸運は、今の(JA)全中会長が奥野長衛さんでよかった。ああいった農協頼みじゃない、変わらないといけないんだと言う人が全中会長なのは大きいですよ。

――農水省の事務次官も6月に交代しました。新任の奥原正明氏は農水省きっての改革派として知られています。

小泉 経産省から局長を招いて、農水省史上初めての経産省との人事交流を始めた。だいぶ改革の方向性が、基礎ができつつある。完全に色を出してきた。

――視察で見聞きしたことをどう政治に結び付けていくのでしょうか。

小泉 それは、最後は政策でしょうね。政治としては思いを表す形ですから。農林部会長という立場で、農業林業の政策をまとめる立場でありますから、人口減に対応できる、世界に挑戦する、若者が見向きしてくれる、やりたいと思えば食べていける、そんな方向性をしっかりつけていきたい。

――山形県大蔵村の若い農家との意見交換会でも、農家が農協から値札のない農薬を買わされている話を持ち出して、「農協の常識は非常識なのに、私みたいな意見を言うと永田町では矢が飛んでくる」と言っていました。既存の農政と闘う覚悟はできているのでしょうか。

小泉 だいぶその方向性が、もう、農水省を含めて腹が固まってきたんじゃないですか。

林前農水相と駅のホームでバッタリ(山梨県甲州市)撮影:常井健一

――でも、これまでのやりかたを大きく変えることに不安を抱えている人たちもいた。

小泉 たぶん、完全なる不安の払しょくは無理だと思います。不安のない世の中なんてない。明日どうなるかわからないし、東日本大震災を経験した僕らはそれを感じたわけじゃないですか。今日までの前提が明日も続くかわからない。そういう時代の中で、いかに世の中のリスクに対して対応できる強さを、しなやかさを持っていけるか。それは個人にとっても言えることだし、地方という共助の部分でも言えることだし、国という公がやらなければいけないことだし。

 今の時代、リスクがないわけではなくて、リスクがあることを前提にどうやって乗り越えるスキルを養っていくか、それが大事だと思っているから、今回の選挙で自民党の話だけを聞くのではなくて、一人一人自分の頭で考えて、自分で判断して一人一人が行動する日本にしていくんだと。そこはね、これからの日本のあるべき方向性に対するメッセージでもあるわけですね。

――小泉さんって農家に厳しいことを迫りすぎる、現場が見えていないと批判する農政通もおります。

小泉 僕がそういう人たちに言いたいのは、農家のみなさんに優しいふりをして、数字は全部右肩下がりの現状は、政治として正しいのですか、と。だったら嫌われても結果が出た方がいいじゃん。全部右肩下がりなんだもん。人に嫌われるのが嫌だったら、政治家にならないほうがいいですよ。僕は一番厳しい、農家に厳しいって言われているとしたら、右肩下がりを止められなかった政治こそが農家に厳しいんじゃないか。それを見てもらいたいね。

 農家の平均年齢66歳、米農家70歳。そういった現状で、『このままでいいんですよ、これで最後までやりましょうね』といって、その後、誰もやる人がいない。そういった現状になるまで優しいふりをしてやって、評価として「農家のことを思う政治家」と言われるのであれば、それほど楽なことはない。「いやあ、有り難い」、「よくやってくれた」、「嬉しい」と言われて、自分が生きている間さえ良ければ、と。良いですねえ。

午前2時のレタス畑視察(長野県川上村)撮影:常井健一

――参院選後には内閣改造・役員人事があります。農林部会長のポストから立ち退いても農政を変える取り組みは続けていくのか。

小泉 農政はどんな立場になっても、ずっとやっていくことになりますよ。それをやらなければならないような農政であり続ける限り、いつだってね、国民の声を見つけていきますよ。

 ただね、農政は急には曲がれないことがわかっている。1年に1回しかコメはできない。そういう中で急には曲がれない。ただ、その方向性をだけはしっかり直そう。

――TPPの国会承認も、秋の臨時国会で台風の目になりそうです。どんな方向性に流れそうでしょうか。

小泉 (民進党が)選挙が終わった後にどういう反応をするかはわかりません。アメリカの動きを見て、オバマ大統領の任期中にTPPが通るならそれを静観するし、通らずに次の大統領で不透明になるんだとしたら、その動きに乗るんじゃないのかな。積極的には乗らないでしょう。

――6月の日本経済新聞に民進党の議員と超党派で農政勉強会を立ち上げるとの報道もありましたが。

小泉 ああいう話ではありませんよ。あれは、勝手に書きすぎ。日経はこっちにまったく取材していない。よくありますよ、こっちに取材されていないのに書かれること。

 まあ、僕の場合は勝手に書かれている場合が多いから、コントロールできないよ。政治の世界の虚と実。その虚の部分がどれだけ多いことか。しょうがないよね。

――それ、私のことですね(苦笑)。

小泉 だって、それが仕事になるのがみなさん。そういう割り切りが必要だから。雑音がなかったら報じることがないんだから。政治の世界にいるなら、そこは割り切るのが普通ですよ。

平日午前中でも街頭は大盛況(青森県八戸市)撮影:常井健一