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組織が傾き始める一番分かりやすい兆候とは?

 社員総会でお手盛りの表彰が行われたり、経営幹部が不要不急の海外出張を立て続けに行うケースというのは、やはり組織が傾き始める一番分かりやすい兆候です。合理的でないカネの使い方、とりわけ見栄に「ブランド価値向上」とか「人の雇いやすさ」とか「夢のある会社に」とかいう言い訳でつぎ込み始めるとあっと言う間に駄目になっていくのが事業です。

 一等地のオフィスに豪華な内装を施し、一見社員の働きやすさのためにとも思えるフレキシブルな勤務体系を実現するというのは、まだ事業が成長し、気持ちよく社員が働いてくれることで上がる生産性がそのまま収益に直結していた時代のことです。インプットを増やせばアウトプットが増えるという成長のシナリオが崩れると、そういう社員に対する厚遇が一転するのもまた、成長企業が業界停滞を起こしたときに見せる典型的な症状と言えます。

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 経営者が、外で何を言うのかは重要なポイントです。メディアに出て素敵な言葉を並べているのに、足元では家賃補助を切り、ボーナスを既定の満額払わなくなるのはリストラ開始の号砲です。退職意向を出した人の補充で各部門が一斉に安い求人サイトでウォンテッドし始めたときは、外部から見て「あー、あそこの会社そろそろ業績ピークからかなり下降し始めたんだな」と思うわけです。

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停滞も苦労も受けいれられる優れた組織になっているか

 どんなに優れた経営者がいても、素晴らしい技術者がいても、いまある仕事が未来永劫青天井に成長していくことなんてないんですから。停滞も苦労も受けいれられる優れた組織になっているかは、むしろ利益が出ていたときに、どんな組織を作り上げてきたのかという下地のところが問われることになるのです。

 先日も、利益の出ていない割に革新的だと持て囃されていたフリマアプリの会社が海外子会社を撤退させていました。俺たちは日本のドメスティックな企業で終わるつもりはないんだという意気は買います。でもお前らギリギリのところをスレスレに攻め過ぎでしょ。あるいは、動画サイトで日本のコンテンツ業界を牽引する名経営者とされた人物が、やはり業績の低迷を打開することができず、他の動画サイトとの勝負に負けて単なる一発屋の駄目経営者であったことが白日の下に晒されることだって起きます。

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 そういう流転の大きい、浮き沈みが激烈な世界において、働く側が、また投資する側が、どうやって生き抜いていくのかは、やはりカネの使い方と何を世の中に言っているのかを冷静に見ながら「何年ぐらいもちそうか?」と見極めていく以外に方法はないと思うんですよ。

 日本発の世界的ベンチャーが登場しないと嘆く前に、もうちょっと真剣に長い年月経営するとはどういうことかを考えていくべきなんじゃないかと思ったりします。世界に冠たるトヨタ自動車だって、自動織機から苦労して業態転換を果たしましたし、任天堂もそこまで高くない給料でもあれだけの作品を作り勝負を続けています。さて、浮き沈みの激しいICT業界で、それこそ100年続く組織がどれだけ出てくるものなのでしょうか。