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片町 由似子
2017/01/29

木村拓哉「A LIFE」に見る“職人技”と“鮮度”

日曜劇場「A LIFE〜愛しき人〜」の味わい方

「俺じゃ、ダメか?」

 これは、木村拓哉が、一般に認知されるきっかけとなったドラマ「あすなろ白書」(フジテレビ系・93年)の名台詞である。メガネ姿の木村演じる“取手くん”が、石田ひかり演じる“なるみ”を後ろからハグして言ったものだ。このシーンは、のちに“あすなろ抱き”と呼ばれ、“壁ドン”なんて言葉がなかった時代の胸キュンシーンの最高峰として、後々まで語り継がれた。木村の俳優としてのブレイクは、当時のジャニーズとしては珍しく、主役ではない“当て馬役”がきっかけだった。あれから24年。記憶と記録に残るドラマを数多く生み出し、日本を代表する俳優となった木村拓哉は、「A LIFE〜愛しき人〜」(TBS系)で、キャリア初の医師役に挑戦している。

 芝居についても、視聴率についても、ドラマスタッフへの差し入れについても、はたまた出演したバラエティでの立ち居振る舞いについてもいちいちニュースになってしまう彼だけれど、ある意味それこそが木村拓哉のスターとしての“鮮度”の表れ。ネットの普及で、好みがどんどん細分化されていく時代に、(アンチの多さも含め)こんなにも一挙手一投足に注目が集まる存在は、今どき新アメリカ大統領か小池百合子東京都知事か木村拓哉ぐらいのものである。

木村拓哉の“鮮度”に危うさを感じた第一話

 とはいえ正直、「A LIFE」の第一話を観た時点では、俳優・木村拓哉の“鮮度”について、少し危うさを感じていた。本人がというよりも、周りのスタッフが、木村拓哉の正義感の強いイメージを大事にするあまり、少し守りに入っているような気がしたからだ。“今度はこう来たか!”という木村拓哉の新たな魅力が、まだ提示されていなかったのである。

 木村の、不器用だけれど正義感の強いヒーローというイメージは、工藤静香との結婚後の最初のドラマである「HERO」(フジテレビ系)によって確立した。“検事”という実は地道な職業にスポットを当て、木村本来の凝り性な、負けず嫌いな性格と主人公とをクロスオーバーさせた久利生公平役は、まさに“当たり役”だった。「華麗なる一族」「南極大陸」「アイムホーム」などを除き、連続ドラマで原作ものが極端に少ない彼の場合、主人公はいつもどこか“当て書き”らしく感じられるところがあるのだけれど、一話では、その“木村拓哉らしさ”が“準備を十分にする”ことぐらいしか感じられなかった。そして、それは新鮮ではなかった。

 でも、二話を観てその不安は一気に払拭された。職人としての俳優道を全うする平泉成演じる和菓子職人が、木村演じる沖田医師に、「あんたも、職人なんだね」と話しかけるシーンで、沖田一光のキャラクターが一気に立った。そうなのだ。木村拓哉が役を演じる時の意識は、常に俳優部に所属する“職人”なのである。

ライヴで“決めワザ職人”と化す木村

 木村は、SMAPのメンバーからもよく「木村くんは器用」と言われていた。でも、その一方で、負けず嫌いからくる無類の努力家であることも、誰もが認めていた。今は、年齢相応の渋みや経験に伴う陰影も身につけているけれど、20代の木村は、ちょっとビックリするような、光り輝くカッコよさを身にまとっていた。

 ステージを縦横無尽に駆け回る木村拓哉を初めて観たときの衝撃は、今も忘れられない。いわゆる“木村アンチ”は、直接ライヴでのSMAPを見たことがない人がほとんどだと思うが、一度でも、ライヴでの木村拓哉に直接触れた人は、その“人としての鮮度”にゾクゾクさせられたはずだ。あの、発光するようなきらめきは、言葉では表現できない。歌い方をかえたり、ポージングを変えたり、お茶目にセクシーにワイルドにと目ヂカラの種類を変えてみたり、ライヴでの彼は、3時間半ぶっ通しで、“決めワザ職人”と化すのである。彼の“美の破壊力”は、現在発売されている「Clip! Smap! コンプリートシングルス」からでも十分に把握できる(ライヴDVDなら、「SMAP SEXY SIX SHOW」の中の森且行とのユニット曲「それが痛みでも」は必見。ジャニーズだからこそ生み出せる、オリジナリティ溢れる甘美な世界観の原点)。

 日本では、職人といえば、なぜか“専業”にこだわる風潮がある。道を極めるものは、専業役者で、専業歌手であるべきで、アイドルで俳優だとかアイドルでアーティストなんていうのは、邪道だと。でも、チームを母体に活躍しているアイドルの場合、対比の中で、自分や相手のキャラクターを立たせるやり方も、十分に心得ている。「A LIFE」では、木村拓哉の存在が、本来は主役級なのに脇で出演している浅野忠信や松山ケンイチの“こんな面もあったのか!”という“鮮度”を引き出すのに成功しているように見える。

 ドラマや映画に出演する時のインタビューを読んでも、常にスターであることより、俳優部の一職人であることにこだわっている木村は、バラエティならバラエティ、現場なら現場で、与えられたポジションを全うすることに全力を尽くす。そして常に周囲を立てる。だから当然、スタッフ受けがいいし、音楽でもドラマでも映画でも、「一緒に仕事をしたい!」と感じる人が後をたたないのだろう。

木村が「ア・ライフ」と呼ぶたびに思い出す曲

 昨年のSMAP解散騒動で、どんな悪意のある報道がなされようと、メンバーは一言も弁解や言い訳はしなかった。普段から、リーダーである中居正広は、SMAPへの愛を公言して憚らず、自分を、「一番身近にいるファン」だと言った。木村は、グループの中ではクールなキャラクターを貫き、どんな局面でも、“動揺”は見せたことはない。SMAP初のメンバー紹介曲「FIVE TRUE LOVE」で、木村は、“限界超えても逃げやしない、それがお前だ!”という中居が歌うフレーズの後に登場する。たくさんの重圧を、自分への期待感に昇華し、常に、エンタテインメントの新たな地平を切り“拓く”。

 先ごろミリオンを達成したSMAPのコンプリートベストに、「A Song For Your Love」というアルバム曲が入っている。ミディアムテンポのバラードで、この曲のことを木村は当時からよく「好き」と言い、「ア・ソング」と省略して呼んでいた。今回のドラマ「A LIFE」に冠詞の「A」をつけようと提案したのは木村だという。彼がドラマのことを「ア・ライフ」と呼ぶたびに、「A Song For Your Love」のことを思い出す。自分のラジオ番組から、「SMAP」というグループ名を外さなかったことも含め、木村は“SMAP職人”としての自分の役割を遂行しているように思えてならないのだ。