アイドルグループSMAPの元メンバー、香取慎吾はきょう、2017年1月31日に40歳の誕生日を迎えた。とはいえ、香取が40歳になったことに驚く人も少なくないだろう。それは彼が単に肉体的にまだ若いというだけでなく、精神的にも成熟しきっていないからかもしれない。出演作でいえば、18歳のときドラマ『未成年』(1995年)で演じた少年のイメージを、彼はいまなおどこかに保ち続けているような気がする。
香取がこれまでにドラマや映画などで演じてきた役柄をあらためて振り返ると、その幅広さに驚かされる。ベトナム人青年、透明人間、孫悟空、慎吾ママ、座頭市、忍者ハットリくん、『こち亀』の両さん、バンパネラ(吸血鬼)など、ときには性別や国籍を超えたり、人間でさえなかったりする。また『SMAP×SMAP』の名物コーナー「ビストロスマップ」では毎回、ゲストにちなんだ仮装で登場するのがお約束だった。このように何にでも変身できる身体性は、香取の持ち味のひとつといえる。たいていの演じ手はある程度の年齢に達すれば、相応の役柄に落ち着きがちだが、彼の場合いまにいたるまでそうならずに来た。これぞ未成熟さのなせるわざではないか。
『慎語事典』が暗示するもの
そんな香取は、SMAPが解散してどこへ向かおうとしているのか。そのヒントになりそうなのが、昨年8月、解散発表直前に出た『慎語事典 SD SHINGO DICTIONARY VOLUME1』(小学館)だ。
2012年より3年間の香取のブログをまとめたこの本は、タイトルが示すとおり事典形式をとり、各エントリーも日付順ではなく五十音順に並べられている。そこでは「昨日」を「キノ」と書くなど独特の表現や、特定の人名などを伏せて書かれた項目も頻出し、日付などからそれが何を指しているのか想像するのも楽しい。
たとえば「1972【イチキューナナニー】」と題して誰かの誕生日を祝うエントリーは、8月18日という日付を見てようやくSMAPのリーダーの中居正広に向けたものとわかる。あるいは「笑って【ワラッテ】」と題するエントリーは二度も繰り返し登場し、本文にはいずれも一言「いいとも」とだけあるが、それぞれ日付が違う。さて、これは何を意味するのか?
このように本書は、随所にちりばめられた手がかりをもとに解釈したり、日付順などに並べ替えてストーリーを組み立てたりと、読者がリアクションしながら完成するようにつくられている。
本書からはまた、現代美術系の展覧会へ熱心に足を運ぶなど香取のアートへの強い関心もうかがえる。それはこの本のコンセプトにも影響しているはずだ。SMAP時代より自分でも絵を描き続けてきた彼だけに、ひょっとすると今後は芸術の道に進むということもありえるかもしれない。その未成熟な部分を最大限に生かすという意味でも、それは悪くない選択だと思うのだが。